非情にも意味のある「特別な1回戦」…明成バスケ部と福岡第一・井手口孝コーチが佐藤久夫先生に誓った新たな旅立ち
■佐藤久夫先生が与えた試練なのか…
「なんでこの組み合わせなのかな、何で初戦なのかな。今日はうちが勝ったけど、どっちにしても1回戦で負けるようなチームではないじゃないですか。力のある両校なんだから、本当はもう少し上で試合をさせてあげたかった…」 激闘のあと、福岡第一の井手口孝コーチが本音を語った。 1回戦屈指の好カードと言われた福岡第一vs仙台大明成。本来ならば、この2校が初戦で対戦することはありえない。というのも、両校はインターハイの準々決勝で対決しており、ウインターカップでは福岡第一が4強シード、明成が8強シードを獲得しているからだ。しかし、福岡第一が県予選で福岡大学附属大濠に敗れて県2位出場となってシード権を失ったことで、まさかの組み合わせが起こってしまった。抽選の結果だからしかたないとはいえ、「どうして」の思いが募るのは当事者だけではなかったはずだ。 ただ、両校ともに「この組み合わせは久夫先生が引き寄せたのかもしれません」と試合前から声が出ていたように、他の年でもない、今年のウインターカップで対戦することに、巡り合わせの運命を感じずにはいられなかった。 「久夫先生」とは、明成の選手たちが全幅の信頼を寄せていた前指揮官であり、今年6月に亡くなった佐藤久夫コーチのことだ。「バスケットコートは人生のレッスンの場」と教え子たちに説いては課題を与え、考え、悩み、這い上がることで選手たちを成長させている。その厳しくも愛のある指導が今もなお天国から届いたのか、まるで、愛弟子たちに「困難に立ち向かえ」と試練を与えているかのような組み合わせだった。 「僕がウインターカップで優勝した2009年の決勝の相手が福岡第一で、僕が初めて采配するウインターカップの相手も福岡第一。節目節目で対戦していることに運命を感じますし、ここを乗り越えなければ日本一にはなれない相手」と語るのは、インターハイ後に正式にコーチに就任したOBの畠山俊樹。今年32歳になる若き指揮官は、Bリーグでの契約を1年残しながらも引退を決意し、佐藤コーチの後継者になるべく母校に帰ってきた。 「福岡第一にはインターハイもトップリーグでも負けているので、久夫先生が『今度は勝て』と、僕らに試練を与えているのだと思います。勝って恩返しをしたい」と語ったのはキャプテンの村忠俊。明成としては、勝利を目指すことはさることながら、教わってきた佐藤コーチのバスケを表現し、チームが前進していることを示したい思いもあった。