田中麗奈さん(43)嫌いになりかけていた、演技への思いが変わったきっかけとは|STORY
涙は生命力の証。悔しい時は、思い切り涙を流して
“ベテラン”と言われることも増えてきましたが、自分では「とんでもない!」という気持ち。まだまだ知るべきことや、必要な練習法は沢山ある。演技という表現をしていく上では、常日頃からアンテナをはって物事を敏感に感じ取ること、感性を磨いて日々更新することも欠かせません。 デビュー当時と変わらず、悔しい思いをすることも未だにあるんです。そういう時の乗り越え方は、感情を“紙に書き出す”こと。何が悔しくて、なぜそう感じたのか、それに対して一体自分はどうしたら良いのか...紙に書いて内観すると、冷静に客観的になれるし、頭の中がクリアになって浄化されていくような気がするんです。 あと、悔しい時や悲しい時に大事にしているのは、“涙を流す”こと。感情に任せて、すごく泣きます(笑)。もちろん泣きたくて泣いているわけではなく、涙は自然に出てくるものですが、“なんとかしよう”と思っている自分の生命力や成長意欲の証でもあり、ハッとさせられる瞬間なんです。そういう涙も決して無駄にしてはいけないと思っていて。悔し涙は間違いなく私の原動力。努力しようと素直に思えます。 40代に入ってからも、役者業への向き合い方に大きな変化はありません。でも、よりシビアに実力を見られて、これまで以上にサバイバルになっている気はしますね。そこに対してはもう、1つひとつ実績を積み重ねて力をつけていくしかない。そういう意識が強いです。心に栄養を与えて自分自身を充実させていくと安心して仕事に臨めるタイプなので、常に勉強はしています。
さらなる高みを目指すため、43歳で初めてアクティングクラスに挑戦
改めてお芝居の力をつけていきたいという思いもあり、今年からアクティングクラス(演劇を実践的に学ぶ学校)に通っています。若い頃に演劇を学んでおけば良かったと、ずっと心残りがあって。でも10代から20代前半には、そんな発想はありませんでした。これまで独学でしかやってこなかったというのが弱みに感じられて、ぽっかり穴が開いているような感覚でした。だから初心に戻って、しっかり基礎を身につけたいと思ったのがきっかけです。 海外の演技コーチのワークショップなどは受けたりもしていたのですが、なかなか日本の先生にお願いしたことがなかったので、合うところを探しました。たまたま、勉強のために読んでいた演技の本のメソッドを使っているスクールとの出会いがあり、そこのアクティングクラスを受講しています。 それが本当に楽しくて仕方なくて、レッスン中、ずっと笑っているんです。レッスンは講師ともう1人の役者さんと3人のプライベートレッスン。セリフをもらって自分で設定を考えたり、色々なパターンでセリフを言ってみたりと、今まで使わなかった脳みそをフル回転!ドラマや映画はしっかり準備して臨みますが、レッスンではその場で即興の演技をする練習もあって、瞬発力が求められる。それがすごく楽しくて、自分でも驚くほど終始大笑い。その時に、「ああ私、やっぱり演技が大好きなんだ」と改めて確信しました。心の底からそう思えていることが、レッスンを通しての嬉しい気づきでしたね。 クラスに通い始めてから、今まで読んでいた演技の本が、理論だけではなく体感として理解できるようにもなって。当時は難しいと感じていた内容もするすると頭に入ってくる。何年か前に読んではいたけれど、今になってやっと腑に落ちて、本質を捉えることができたという感覚になりました。 実は演技のことを、好きだと言えない時期があったんです。好きでたまらなくて役者をやっていたはずなのに、知らず知らずのうちに責任や自分の役割など、プレッシャーでがんじがらめになっていた。好きとか嫌いという次元ではなく、“やり遂げなければ”という使命感や恐怖心の方が大きかったです。結果的に、“楽しむ”ということができなくなっていました。 でもレッスン中に、カメラも回っていないところで純粋に演技と向き合ったら、心が震えるほど楽しくて!クラスに行く日の朝は、楽しみでパッと目が覚めてしまうほど(笑)。それくらい、アクティングクラスは私に変化を与えてくれたし、今では「演技が好き」と自信をもって言えるようになりました。 芝居は探究心を掻き立てられる正解がないもの。だからこそ面白い デビュー当時は子どもでしたから、周りの大人に気を遣っていたことも多かったんです。こんな発言は生意気かなとか、大人の事情があるのかなとか。「こうしたい」と思っても、一言「違う」と言われてしまえば、「そうなのかも」と流されたり...。軸も定まっていなかったし、自分のことがよくわかっていなかった。“ただ演技が好き”という気持ちに、色々なしがらみが纏わりついて重たくなっていました。でも少しずつ、ライフスタイルの変化や学び、経験によって色々な鎧が剥がれてきたというか、ほぐれてきたのを実感しているんです。一周回って、10代の頃に夢を描いていた頃のピュアな“好き!”という気持ちに戻って、原点回帰したような感じ。“演技がしたい”という強い思いは、当時と全く変わりません。 こんなにも演技というものに惹かれている理由は、芝居が絶えず探究心を掻き立てられる、正解がないものだからかなと思います。台本に書かれているセリフを見ると、まず「やってみたい」という衝動に駆られるんです。セリフの奥にある本質は何なのか、本当に伝えたいメッセージや、実際の気持ちはどういうものなのか、この会話は一体どんな表現を目指しているのか...。 台本の中のストーリーやセリフを、どうしたら体現できるのか、想像したり試行錯誤しながら色々な手段で表現してみる。実際に現場でお相手と対峙してみると、また新しいものが生まれたりして、自分でも想像しなかったところに展開していくことも。芝居は常に流動的で、ナマモノのようなもの。1度表現してもまた次には違うものになっていたりするから、本当に面白いんです。監督や共演者によっても、体現する方法は大きく変わります。特に共演者とはライブでシーンをつくり上げていくので、相手の表情や空気感によって、予想していなかった初めての反応が自分から生まれる。見えない何かがそこで変化し続けて、毎回新しい発見があります。だからこそ、怖いという感覚もありますが、怖さも練習や努力の材料。エネルギーの源泉として、うまく活用していきたいです。 よく、どんな役をやってみたいか?という質問をされますが、それは自分でもわからないというのが正直なところ。周りの方から思い出していただけるような存在でありたいというのはありますね。求められる人になるには、本当にコツコツ、日々の積み重ねで努力を楽しむことに尽きると思います。 最近改めて感じているのは、演技をする上で、自分の人生経験がすごく役に立っているということ。歳をとることも、悲しいことも悔しいことも全て糧になって、役作りに反映されていく。だからこそ、40代の今の自分にしかできない演技を全力でやりたいですね。 デビューして26年になりますが、「お芝居が楽しい!」と心から思えているこの感覚を忘れないで、10年後も同じように感じながら役者として表現していたい。それが、今描いている理想の未来です。 シャツ¥18,920(メゾンスペシャル/メゾンスペシャル 青山店)パンツ¥47,400(シー/エスストア)シューズ¥74,800(ディアフランシス/ギャルリー・ヴィー 丸の内店)ピアス¥42,900※片耳価格(ジャスティン デイビス/ジャック・オブ・オール・トレーズ プレスルーム) 撮影/谷田政史(CaNN) ヘア・メーク/岡野瑞恵 スタイリスト/竹村はま子 取材・文/渡部夕子