土砂災害で自宅被災 「二重ローン」生活再建には多額の借金背負うしか…【地域から問う衆院選】
2014年8月の広島土砂災害で3人が犠牲になった広島市安佐北区可部東の新建(しんだて)団地。会社員の刀根(とね)義人さん(41)の自宅は当時、そばの台川の氾濫で基礎部分がえぐられ、床下の一部が宙に浮いた。築2年で33年分、2千万円を超すローンが残っていた。再建には新たに多額の借金を背負うしかないのか―。子3人を抱え「先が見えず、途方に暮れた」と思い返す。 【写真】広島土砂災害で基礎部分がえぐれた自宅(2014年9月) 直面した「二重ローン」問題。当時はローンの返済を一部免除する「被災ローン減免制度」の対象は11年の東日本大震災のみで、広島土砂災害は対象外だった。川の管理者でもある市に復旧や補償を訴え、工事をしてくれる業者を探し回った。 結局、家を一度持ち上げて基礎を直す「ひき家」工法で約1500万円かかった。義援金や支援金で負担は数百万円まで減ったものの、生活のため「必死だった」出来事は忘れられない。 全国で頻発する大規模災害を受け、被災ローン減免制度は16年4月、15年9月以降の災害救助法が適用された災害も対象になった。広島土砂災害は対象外のままだ。刀根さんは制度のはざまで悩んだ当時を振り返り「非常時にはもっと柔軟に運用してほしい」と願う。 大規模災害で命が助かったとしても、生活再建に苦しむ被災者は少なくない。能登半島を元日に襲った大地震。現地は9月に豪雨にも見舞われ、損壊した住宅が十分に修理できないまま再び被災したケースも多かった。 支援拡充を求める声を受け、石川県内の市町は住宅の被害認定調査で、地震による損壊被害に豪雨の被害を加味して判断する方針を決めた。二重の被災を一体的に扱い、生活再建を手厚く支えるのは異例の対応だ。 市町の求めに応じ、県が内閣府と協議して判定指針を通知。輪島市は、2千棟を超す住宅が調査対象になるとみられるという。市の担当者は「支援手続きを進める中で、生活再建を後押しできる」と胸をなで下ろす。 今回の衆院選で各政党は、国民の命と暮らしを守る防災・減災対策を公約に盛り込む。ただ、生活再建への切れ目ない支援の内容にまで具体的に言及しているのは一部の党に限られている。 論点に浮上しているのは、現行の内閣府防災担当の人員や予算を強化して専任大臣を置く「防災庁」設置の是非だ。与党や野党の一部が事前防災や初動対応のために必要性を主張する一方、他の野党は補正予算を優先すべきだとし「あさっての話だ」などと批判する。 論戦を注視する広島経済大(安佐南区)の松井一洋名誉教授(災害情報論)は、組織論よりも構想の中身が問われると説く。「地域特性を踏まえた災害に強いまちづくりに向け、各自治体をサポートする役割や仕組みづくりにもっと力を入れる必要がある」と指摘している。
中国新聞社