無観客試合から1年 浦和はどう変わったか
ただ、一方では状況を見ながら段階的にルールを緩和していくことを検討するという構えも示していた。浦和の場合は、サポーターの団結した応援そのものが魅力の一部であるという意見も多い。そのエリアで応援していないというファンでも、「ゴール裏の熱狂的な応援がないと物足りない」という声も多かったのだ。 段階的緩和としては、昨年4月にまずはオフィシャル製品に限って応援フラッグの持ち込みを可とした。同11月のガンバ大阪戦からは浦和サポーター名物のコレオグラフィーを解禁。そして、問題が起きた時点からほぼ1年後の3月14日にあったホーム開幕・モンテディオ山形戦から、事前申請により横断幕の掲出が解禁となった。 横断幕のルールづくりは、言葉の解釈が絡むだけに最も難しい。山形戦では、135件の申請があり、109件が受理され、残りは引き続きクラブと申請者の間で話し合いを継続していくこととなった。そのうえで、申請が受理された内の68件が山形戦で実際にスタジアムに掲出されたという。 申請するサポーター側も、受理するクラブ側にとっても、非常に困難で多大な労力を払う作業。ひとまずは新たな問題が発生することなく解禁第1戦が無事に終わった。 浦和には、「レッズワンダーランド」と呼ぶ、老若男女が楽しめる非日常空間づくりという考えがある。しかしながらその反面、初めて足を運ぼうという人にとっては、敷居の高さを感じさせる要素があるのも否めなかった。 ただでさえ少子高齢化が進む日本において、これでは将来的なクラブ経営という観点で先行き不安が膨らんでいく。そこでクラブは昨年の出来事をきっかけに、今年から、さまざまな応援スタイルで楽しめるスタジアムづくりをするために席割りの定義を設け、エリア毎に応援スタイルの棲み分けを行うようにした。 それによって、座って応援したいという人、家族で見たいという人が安心してスタジアムに足を運べるようにした。また、従来は大人料金(今季は2100円)だった高校生料金を、自由席に限って子ども料金と同額の800円に値下げするなど、若い世代の来場を促進させる施策を打ち出している。背景には、ファン・サポーターにスタジアムで絆を深めるコミュニティーの場をもたらすことによって、浦和レッズというクラブが存在意義を持つのだ、という考えがある。 Jリーグには発足した当時から高々と掲げられてきた「地域密着」という理念がある。浦和はその先頭を走ってきたクラブ。無観客試合の代償は大きかったが、それが足元を見つめ直すための変革を行っていくきっかけとなったのは間違いない。 なお、Jリーグは今シーズンからクラブへの制裁に関わる規約の第142条に、新たに「一部観客席の閉鎖」を加えた。「無観客試合の開催」より1段階軽い処分。これは無観客試合のダメージが想像以上に大きかったことを示す条項追加と言える。 (文責・矢内由美子/スポーツライター)