「作詞家の仕事も増えていく中、それでもアイドルの歌詞は苦手なので書きませんと断っていたんです。でも、ある日、マネジャーに、プロになりたいなら、アイドルとかも書けないとダメだと言われましてね。職業として、書けなかったら生き残れませんよ、と。それでやってみようかと思ったのが、中森明菜さんの『少女A』（1982年）だったんです」

最初にタイトルが思い浮かんだという。「しめたと思いましたよ。このタイトルなら、犬と渚を走るとか、アイドルっぽいふわふわしたことを書かなくて済むと思ったんですよね」と明かす。

しかし、いったんは没になった。そこで、同じ事務所に所属していた芹澤氏のストックからぴったりはまる曲を探したところ、現在のメロディーが見つかった。

「歌詞の文字数が多いから、一番球数（音符の数）の多い曲を選んだんです。サビは〝ねえ、あなた、ねえ、あなた〟という芹澤さんの仮歌がついていたんです。で、ぴったりくる言葉を考えたら、〝じれったい、じれったい〟が浮かんだんですよ」

歌詞、メロディーがぴったりはまった。それを歌うのは中森明菜だ。すべてのピースがそろったのだから、ヒットしないわけがない。

そして、その年の終わりにはチェッカーズと出会う。ここから売野・芹澤コンビで、チェッカーズの快進撃が始まることになる。売れっ子作詞家への道もまっしぐらだ。

冒頭の言葉は、あなたにとって〝言葉とは〟と尋ねた答えだ。

「言葉が好きだってことに目覚めたのは高校2年の時かな。本を読むのが好きで、高校2年で読んだ倫理のことが書かれた本で〝寛容〟って言葉に触れたの。なんかすごく新鮮でね。ちょっと宇宙を感じたのよ。詞はそうした言葉の組み合わせ。自由自在に使える言葉をたくさん持っていないとね」

（ペン・福田哲士　カメラ・酒巻俊介）

■売野雅勇（うりの・まさお）　作詞家。1951年2月22日生まれ、73歳。栃木県出身。上智大学卒業後、広告代理店でコピーライターとして活動。81年、シャネルズの「星くずのダンス・ホール」で作詞家デビューする。82年の中森明菜「少女A」のヒットで作家活動に専念。このほかチェッカーズ「涙のリクエスト」、稲垣潤一「夏のクラクション」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」、ラッツ＆スター「め組のひと」、荻野目洋子「六本木純情派」、矢沢永吉「SOMEBODY’S　NIGHT」などヒット曲多数。

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