『八犬伝』サプライズヒット 公開タイミングの良さとキノフィルムズの映画界への貢献
10月第4週の動員ランキングは、曽利文彦監督、役所広司主演の『八犬伝』が週末3日間で動員12万5700人、興収1億6800万円をあげて初登場1位となった。オープニング成績が興収1億円台半ばというのはそこまで高い数字ではないが、『室井慎次 敗れざる者』と『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が伸び悩んだことで、ダークホース的に1位に躍り出たかたちだ。配給のキノフィルムズにとっては、2011年の設立(それ以前から親会社の木下グループは文化事業として多くの映画に出資してきた)以来、本作が初めての動員ランキング1位獲得作品となる。 【写真】『八犬伝』場面カット(複数あり) 10月24日に閉館したシネマート心斎橋の跡地にkino cinéma心斎橋をオープン(12月中旬予定)させるなど、製作や配給だけでなく興行面においても映画業界を支えているキノフィルムズだが、今回の『八犬伝』は全国363館での公開と、メジャーの配給会社にも引けを取らない規模での公開を実現している。また、前回の本連載で取り上げた先週末6位の『侍タイムスリッパー』は、先週末から全国318館まで公開が拡大。『室井慎次 敗れざる者』や『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の興行が全国のシネコンにとって期待外れとなったことが、結果的に両作品の興行にとっては功を奏したことになる。 『八犬伝』は役所広司演じる著者の滝沢馬琴、寺島しのぶ演じる馬琴の妻お百、内野聖陽演じる葛飾北斎を中心に展開される「実」のパートと、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』をベースにした土屋太鳳演じる伏姫、渡邊圭祐演じる犬塚信乃らによって展開される物語内物語の「虚」のパートが交差して描かれる、かなりハイコンテクストな作品。一応「原作もの」とはいえ、原作となったのは山田風太郎の40年以上前に出版された著作。独立系の映画会社ならではのチャレンジングな企画だけに、今回のヒットには大きな意義がある。 名実ともに日本を代表する役者の一人である役所広司にとっても、『八犬伝』は11年ぶり(前回は2013年公開の『清洲会議』)に動員ランキング1位を獲得した作品への出演になった。観客層の幅の広さから、ウィークデイに入ってからも強さを発揮しているので、口コミ次第によってはロングヒットも期待できるだろう。 ※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年11月1日22:30、リアルサウンド編集部) 誤:土屋太鳳演じる伏姫、渡邊圭祐演じる犬塚信乃、磯村勇斗演じる宗伯、黒木華演じる宗伯の妻お路ら 正:土屋太鳳演じる伏姫、渡邊圭祐演じる犬塚信乃ら
宇野維正