古川琴音、2本の主演映画で分かる芝居の奥行き 2024年はさらなる飛躍の予感
古川琴音の主演映画が、1月に『みなに幸あれ』、2月に『雨降って、ジ・エンド。』と立て続けに公開される。 【写真】『どうする家康』では甲冑に身を包み壮絶な最期を遂げた古川琴音 筆者はかねがね、古川がホラー映画と相性がいいのではないかと思っていた。それは『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)で演じたイブ、そして『犬神家の一族』(NHK BS4K・BSプレミアム)での野々宮珠世役を観て感じていたことだ。 前者は露伴(高橋一生)の大ファンとしてチャーミングに近づきながら、露伴を命の危険に晒すシリーズ最強の敵。『犬神家の一族』では、犬神佐兵衛の莫大な遺産の相続権を持ち、“スケキヨ”こと犬神佐清(金子大地)を慕う令嬢でありヒロイン・野々宮珠世を演じた。どちらも愛憎渦巻く物語ということは共通していながら、前者は露伴を巻き込んでいく側、後者は相続問題に巻き込まれていく側でもあった。ミステリー/サスペンス色の強い2作、特に横溝正史シリーズを経てということもあるが、古川は両者の立場を『みなに幸あれ』で見事に演じ切っている。 『みなに幸あれ』で古川が演じるのは、看護学生の“孫”。田舎に住む祖父母に久々に会いに行くところから物語は始まるが、この祖父母の様子がとにかくおかしい。そして、孫は家の2階にいる「何か」の存在に気づき、村全体、ひいてはこの地球上全体が「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」という摂理にあることを理解する。 物語にはやがて父母も合流することになるが、際立っているのが家族に流れる異様な雰囲気。“幼なじみ”を演じている松大航也以外は、演技がほぼ初めてだという役者も多く、そのあえてのキャスティングがチープさとは違った、Jホラーとしての不気味な空気感を醸し出すのに成功している。 言ってみれば家族の中でまともなのは、孫のみ。彼女はその「何か」を目の当たりにしたところで、自分の家族が異常だということが確信へと変わる。その恐怖と絶望、そして覚悟。孫は幼なじみと結託して、村の法則に抗おうとするが、気づけば彼女もまたその螺旋の中へと巻き込まれていく。筆者が思わず息を呑んだのはその瞬間だ。巻き込まれていく側から、巻き込んでいく側へとスイッチングしていく様。そこには悲しみを帯びつつも、身体全体から狂気を放つ、古川の鬼気迫る芝居がある。ホラー映画初出演にして、新境地を開拓したと言えるだろう。 2月10日には『雨降って、ジ・エンド。』が上映開始となる。ポスタービジュアルには、風船を持つ謎の中年ピエロ。この流れからすると映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のペニーワイズかと思うかもしれないが(劇中でも「ペニーワイズ」の名前が出てくるくらい)、本作はその逆の純愛ストーリー。古川が演じるのは、ピエロの姿をした雨森(廣末哲万)と出会う、フォトグラファー志望のOL・日和。雨森を撮影した写真がSNSでバズったことをきっかけにして、日和は雨森をモデルにしたいと彼の家を訪ねる。決して素顔を見せない謎めいた雨森に、自分でも気づかない間に心惹かれていく日和。衝撃的な雨森の秘密を知りながらも、暗いトンネルの先に答えを見つけるラストシーンが、まさに物語の核心であり、本作において古川と廣末哲万の最も惹きつけられる芝居なのだが、「屁をこかされた」という雨森のセリフを例にした、くだらなく、何気ないシーンがまるでレンズフレアのようにキラキラと輝いて見える。 注目は、本作の撮影が2019年だということ。『みなに幸あれ』と後述する『幽☆遊☆白書』(Netflix)がどちらも2022年11月頃であり、古川の出世作となった朝ドラ『エール』(NHK総合)の放送開始が2020年3月であることからも、『雨降って、ジ・エンド。』にはブレイク前夜の古川の芝居が収められているとも見てとれるのだ。今よりもどこかあどけなさが残る一方で、すでに演技力は確立されていることに驚かされる。 2023年12月より配信開始となったNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』では、霊界案内人役のぼたんを演じた。浦飯幽助(北村匠海)をサポートする付き人として、原作同様に本作でも白石聖が演じる雪村螢子を上回るほどの出演時間を誇っている。「ちょいと待ちなよ」「~してしまうよ」といったセリフを筆頭に、ほかのキャラクターにはない少し変わったイントネーションと本作を明るくするある種のムードメーカーとしての茶目っ気など、役作りの難しい演技が要求されると想像するが、『雨降って、ジ・エンド。』からすでに見られたあどけなさが残る古川の声がぼたんとしての役を形成しているように思える。 昨年は大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)で、暗躍するミステリアスな巫女・千代を好演した古川。2024年は『みなに幸あれ』と『雨降って、ジ・エンド。』のほかにも、2月18日より放送のドラマ『お母さんが一緒』(ホームドラマチャンネル)、4月開始の連続ドラマ『ACMA:GAME アクマゲーム』(日本テレビ系)、6月ロードショーとなる映画『言えない秘密』が控えている状態。特に『言えない秘密』は、ヒロイン役であり、秘密を抱えたミステリアスな音大生ということで、古川の魅力が存分に発揮される予感がする。
渡辺彰浩