女性10人が6日間走り続ける。なぜルルレモンが「ウルトラマラソン」を実施したのか
アート、サイエンス、テクノロジーの組み合わせ
■個々人のニーズを満たすイノベーション 製品イノベーション担当のバイスプレジデント、シャンテル・マーナハンによると、参加ランナーのほとんどが6日間のウルトラマラソンは未経験のため、未知の領域で起こることを想定し、対応する必要があった。 開発においては、6日間常時稼働する機能と、状況に応じて変化する機能に分けて研究を進めた。前者はフィット感やコンプレッション、栄養補給品を収納できるストレージなど。後者は保温や通気性、冷却、UV機能などである。特に重要な課題だったのが、1日の中で大幅に変化する気温への対応と、走り続けることで必ず障壁となる筋肉損傷のペースを緩やかにすることの2つだ。 例えばスポーツブラは、ブラ全体に均等に圧力を分散しながら、長時間の着用でも快適な着心地を保った。また、ウェアの背中上部に冷却材を入れるポケットをつくり、そこに保冷機能がある素材を使用するなど、直射日光の当たる日中のランにも対応した。さらに、ボトムスの脚上部はコンプレッションによって身体にほとんど負荷をかけない設計とし、筋肉疲労や筋肉損傷を遅らせることに成功した。 「1年前にスタートしたときは、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。アート、サイエンス、テクノロジーを組み合わせて業界をリードする製品体験を提供することができ、そのことが私たちを新たな高みへと押し上げました」(シャンテル) 長時間走り続け、100万歩以上を踏み出すウルトラマラソンでは、シューズも重要だ。2022年にシューズ市場に参入したルルレモンだが、2年かけて女性ファーストの研究・開発を重ねてきた。今回はその実績をもとにアスリート個々人に合わせた製品を開発した。
女性の足の形や動きに合わせたシューズ
シューズ開発チームを率いるサイモン・アトキンスによると、スポーツシューズのほとんどが男性の足型でできているが、同社では、女性の足の形や動きに合わせた製品をつくっている。 「女性の足は男性よりも柔軟でつま先立ちすることがあります。そこでインソールを2ミリ厚くしたり、アウトソールのつま先部分の柔軟性をよくしたりといった工夫をしました。また、床への着地についても男性と異なることがわかったので、かかと部分のパッドをわずかに調整しました」 こうした細かいテクノロジーを詰め込んだシューズは、アンバサダーやウェアテスターによるテストを重ね、最終的には少し軽量化してより速く走ることにも役立つ製品となった。 今回のウルトラマラソンの走行中にも、モーションキャプチャカメラなどを使って天候によって変化するコースの地面の反力や、時間の経過とともにアスリートのパフォーマンスがどのように変化するかといったデータを計測。今後の研究に役立て、2025年にはゲストへの販売とテストを実施する予定だ。 ■30人の研究者がサポート 研究チームには、カナダスポーツ研究所と、スポーツ栄養学やスポーツ医学などスポーツに関わる世界クラスの研究者30人が参加。約1年半かけて研究し、6日間のレースでは数十万のデータを分析した。 研究では、世界記録を更新したカミーユ・ヘロンが高い自然脂肪酸化率を持っていることが判明。シャンテルは「これが彼女を突き動かす原動力の一部。このデータのおかげで、彼女はレースとレースの間にそれほど多くの炭水化物を消費する必要はない、というアドバイスをすることができました」と話す。 また、女性ウルトラランナーは男性ウルトラランナーに比べて耐疲労性に優れているのかを調べるため、VO2 Max(最大酸素摂取量)テストを実施。心拍数や乳酸値、効率性なども測定した。彼女たちのほとんどが、初めてこのテストを受けた。 その結果、2時間走った後でもアスリートたちの心拍数や受けた運動量の評価は変わらなかった。研究チームはこのことに衝撃を受けたという。その理由は、彼女たちが最も効率的な動きをしているから。特定のペースで歩いたり走ったりすることは、エネルギーバランスを保つうえで非常に重要だということがわかった。