多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」
日銀が政策転換を実施したにもかかわらず、外国為替市場では円安が進んでいる。首をかしげている人も多いようだが、市場原理を知る人にとっては不思議なことではない。大規模緩和策からの撤退が始まったことで、際限のない円安リスクは回避できたが、大きな方向性としては依然として円安傾向が続く。 【写真】「投資すれば豊かな暮らしができる」という国の「大ウソ」
「為替は金利差で動く」は、100%正確ではない
日銀は3月19日に開催された金融政策決定会合においてマイナス金利の解除を決定した。これは長く続いた大規模緩和策からの撤退を意味しており、秋にはゼロ金利の解除が行われ、いよいよ短期金利が上昇に向けて動き出すことになる。 日本円は過去2年間で、1ドル=100円から150円と暴落に近い状況まで下落した。この急ピッチな円安について多くの専門家は日米の金融政策に起因する金利差が原因であると説明してきた。為替の理論は簡単ではないので、筆者もテレビに呼ばれたり、一般紙からコメントを求められた時には「金利差が原因」と説明したこともある。 だが金利差で為替が動くという説明は、半分は当たっているのだが、100%正確とは言い難い。 もし為替市場が金利差で動くのであれば、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は利下げに向けて動き始めており、一方の日銀は利上げ開始するタイミングなので、円高に振れるとの予想になる。実際、多くの専門家がゼロ金利解除後は急激な円高になると説明していた。 だが現実は正反対であり、むしろ円安が進んでいるが、筆者らにとってこれは予想された事態であり、特段、大きな驚きはない。その理由は、厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである。
「物価見通しの差」で決まる
最終的に為替市場の動向を決めるのは、金利ではなく将来の物価見通しである。 これは経済学の分野では購買力平価という形で理論化されているが、多くの専門家がこの理論を消化できておらず、結果として為替市場の動向を見誤っている。それはどういうことだろうか。 購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である。 物理学の法則でもよくあることなのだが、複数主体の関係性のみを示したモデルというのは少なくない。自然科学を学んだ人であれば、これはごく当たり前のことだが、いわゆる文系的な世界にこうしたモデルが持ち込まれると、時に想定されていない「文学的解釈」が登場することがある。