日本人には簡単なのに…羽生善治が語る「最新AIも超えられない」高すぎる「日本語の壁」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第20回 『「妻がびっくり仰天してました」...ノーベル賞科学者・山中伸弥が明かす、アイデアを生み出す意外すぎる行動』より続く
AIにバッハの曲は作れても春樹の小説は書けない
山中 AIが本当に人間に代わってさまざまな仕事ができるかどうかは、僕たちが勘と呼んでいるものの本質がどれだけ明らかになるか、AIがどれだけそれと同じことをできるかが一つのポイントになると思います。 羽生 そうですね。勘みたいなものは、私たち人間にとっても、なぜそう思ったのか、どこから来るのかがきちんと説明できないので、AIにはかなり高いハードルなのではないかと思います。 山中 そもそもプログラムできないですからね。 羽生 はい。AIがいちばん得意なのは「最適化」です。つまり組み合わせの中から最も適した答えをみつけることです。だから、人間のようないわゆる美的センスは持ち合わせていません。つまり人間が自然の風景を見て「美しいなあ」「素晴らしいなあ」と感じる美意識や感性を学習させるのは、かなり大変だと思いますね。
AIに感情表現はできるのか
羽生 AIには開発が進んでいる世界と進んでいない世界がいろいろあります。それは数学的な処理ができるかどうかと密接に関わっています。たとえばバッハ風の曲なら、数学的に解析できるため、AIでもけっこう作ることができます。 文学なら構成が明確なショートショートくらいまでなら書けます。実際、20一6年3月にAIが書いた物語が「星新一賞」の一次審査を通過しました。じゃあAIが村上春樹のような小説を書けるかと言うと、今の段階では無理です。 山中 スポーツの記録とか決算報告といった定型の文章の作成には、すでにAIが導入されているらしいですね。でも、そこに感情や感覚に基づく表現を入れるとなると大変です。 羽生 やっぱり言葉はすごくハードルが高いようです。自然言語処理と言いますが、AIが何をやっているかと言うと結局、数学的な処理で言語を扱っているんです。縦軸と横軸の空間があって、たとえばワインボトルがこの辺りにあって、グラスがこの辺りにあるということを、データをもとに計算して、その距離関係から文章の関連性を調べていく。単に数学的な処理をしているだけなので、人間の文章理解とはまったく違います。 国立情報学研究所の新井紀子先生が取り組んできた「東ロボくん」[2011年から「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおいて開発が進められた人工知能]は、2016年11月に東大合格を断念してしまいましたね。
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/羽生 善治