中国人の間で「日本のとんかつ」が《市民権》を得た納得の理由…「さぼてんは必食の店」定食2000円でも大繁盛していた
あえて「現地化しない」戦略が成功
ようやくとんかつに日の目が当たるようになったのは2010年前後。時間を要した主な理由は、流行を牽引していたホワイトカラーの若い女性層が揚げ物を嫌っていたことに加え、そもそも、原料となる臭みのない日本仕様の豚肉の入手が難しかったためであると筆者は分析している。とんかつ普及の大きな後押しとなったのは、家畜の飼育環境改善による豚肉の品質向上と購買力の向上であったと考えられる。 「さぼてん」をはじめとするとんかつ専門店の平均単価は100元程度(約2000円)。都市部のレストランとしては、特に高価格帯という訳ではないが、単品メニューの定食屋と捉えると、割高感は拭えない。 付加価値を高めるのに有効な手段は現地化なのだが、実は専門業態の現地化は簡単ではない。現地化を進めれば進めるほど、本来その業態が持っていた魅力が軽減してしまうケースが少なくないのだ。その点、現在のとんかつ専門店は、いい意味で現地化を進め過ぎず、その価値を理解してくれる層を対象にニッチマーケット戦略をとっている。 そもそも、麺類をはじめとする炭水化物業態に比べれば、とんかつは中国人に価値を認めて貰いやすい商品である。強い商品力を柱に、地道に市場を開拓していく戦略は、多くの日系外食チェーンにとって参考になる事例であると筆者は考えている。 現在、インバウンドでも注目を集め始めているとんかつ業態。日系外食チェーンの中国での奮闘を、引き続き注意深く見守っていきたいと思う。 【こちらも読む】『中国・北京の若者の間で「二郎系ラーメン」と「日本の町中華」がブームになっている「意外な理由」』
藤岡 久士(ゼロイチ・フード・ラボCEO)