『光る君へ』吉高由里子がさらなる進化へ まひろの人生を肯定した道長と為時の言葉
為時(岸谷五朗)「お前が、女子であってよかった」に込められた思い
まひろが内裏に出仕する日、家族一同がまひろを見送る。惟規(高杉真宙)は「大げさだなあ」とぼやいていたが、為時は娘が内裏に出仕することが誇らしかったに違いない。為時は感慨深げにこう言った。 「お前が、女子であってよかった」 思いがけない言葉を受け、はっとした後、まひろは嬉しそうに息を吐く。目に涙を浮かべながら、喜びを噛み締めるような吉高の演技が心に響いた。吉高は公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」で、為時の言葉に「自分自身っていう人を評価されたという感情が湧き出たんじゃないかなって、一番理解してくれて、一番褒めてもらいたい人から、一番うれしいことばをもらえた回なんじゃないかなって思ったりしました」と話している。吉高が捉えた感情がありありと伝わってくる、印象的な場面となった。 第32回では、一条天皇の顔に現れる感情の機微もまた印象に残っている。一条天皇の気持ちはいまだ彰子に向いていない。一条天皇は藤壺を訪れたが、それは亡き定子(高畑充希)の子・敦康親王(池田旭陽)に会うため。敦康親王に優しく声をかけ、穏やかなまなざしを向けていた一条天皇が、彰子から「お上」と声をかけられた途端に視線を外す場面は、一条天皇と彰子の関係が縮まっていないことを表しており、見ていて心苦しい。 とはいえ、彰子との関係性が前進する兆しも。皆既月食が起きた晩、内裏から火の手が上がる。一条天皇は、敦康親王を先に逃すも逃げずにいた彰子に「そなたは何をしておる」と呆れたように叱る。彰子は一条天皇の顔を見つめ、「お上はいかがなされたかと思いまして」と口にした。この場面で一条天皇を演じる塩野は一瞬、息を呑んだ。 一条天皇にとって彰子は、父親の言いなりで自分の言葉で語ることが少ない女性として映っていたに違いない。けれど、この塩野の演技には、一条天皇が彰子のまっすぐなまなざしと言葉を通じて、彰子が心から一条天皇の無事を祈っていたことを知り、わずかに心が動いたように感じられた。一条天皇は彰子の手を握り、共に火の手から逃げる。途中、転んでしまった彰子に「大事ないか」と問いかけるその声色は、元来の心優しき一条天皇のものだった。 そうは言っても、完全に彰子に心を開いたわけではない。一条天皇が彰子を助け出してくれたことに礼を述べる道長に対し、「中宮ゆえ当然である」と返す声は冷たく、「そなたのことは頼りにしておる。されど、中宮、中宮と申すのは疲れる」というのは本音だろう。 内裏に出仕したまひろの今後、そしてまひろが書いた物語がどのようにして一条天皇と彰子の関係を深めていくのか、気になるところだ。
片山香帆