新しいランボルギーニ ウルスSE登場! ブランド初のハイブリッドスーパーSUVへ
新しいランボルギーニ「ウルス」は、電動化で何を得たのか? ひと足はやく実車を見た大谷達也がリポートする。 【写真を見る】新型ウルスSEの内外装(41枚)
駆動系の改良でドリフト大歓迎!
全モデルのPHEV(プラグイン・ハイブリッド)化を進めるランボルギーニからウルスのPHEV版であるウルスSEが発表された。同社のPHEVとしては、昨年リリースされた「レヴェルト」に続く2作目となる。 もっとも、ボディ構造だけでなく駆動系のレイアウトまで大胆に変更したレヴェルトに比べれば、ウルスSEの変更点はビッグマイナーチェンジの域を出ない。エンジンも、部分的な改良がくわえられたにせよ、基本的には従来型からキャリーオーバーした4.0リッターV8ツインターボのまま。それでも、たとえばワインディングロードやサーキットでこのニューモデルを操れば、そのハンドリングの違いに愕然であろうことが、その説明会に参加して判明した。 ウルスSEの変革ぶりについて、ランボルギーニの技術部門を率いるルーベン・モールはこう語った。 「ウルスSEだったら、簡単にドリフトができますよ。おなじようにドリフトが簡単なレヴェルトより、さらに簡単なくらいです」 SUVでドリフトができることが必要かどうかはさておき、一般的にいって、ドリフトができるクルマはハンドリングが俊敏かつ軽快で、意のままに走らせられることが多い。つまり、ウルスSEは従来型よりも操って楽しいクルマに生まれ変わったと考えられる。なぜ、ウルスSEのハンドリングはここまで劇的に変化できたのか? その最大の理由は駆動系の改良にある。 従来型ウルスの駆動系は、センターデフにトルセン型を用いていた。これはアウディ・クワトロで実績のある優れた方式で、動作がスムーズで安定性が高いことで知られる。 いっぽう、ウルスSEの4WDシステムにはトルセン式センターデフに変えて電子制御式油圧多版式クラッチを採用した。とはいえ、それぞれの方式の名前まで覚える必要はない。ただ、4WDの駆動力配分が従来のメカニカルなものから電子制御式に変わったと記憶すれば十分である。 いうまでもなく、メカニカルなものは動作遅れが比較的小さいけれど、みずから状況を判断して制御の内容を変更することは難しい。いっぽう、電子制御はシステムが状況を判断し、それに応じて制御の内容をさまざまに変更可能だ。ランボルギーニはこの点を鑑みて、メカニカル方式から電子制御方式へと大きく舵を切ったのである。 ランボルギーニがこれほど大胆な路線変更に踏み切ったのは、これまで彼らが培ってきた4WDに関する長年のノウハウとその制御技術の蓄積にある。 現在、ランボルギーニはアウディとおなじフォルクスワーゲン・グループに属している。そしてアウディには、前述したクワトロという優れた4WD技術がある。そう聞いて「なるほど。つまり、ランボルギーニはアウディから4WD技術を学んだわけだ」と、思われるかもしれないが、それは早計。なにしろ、ランボルギーニ初の4WDスーパースポーツカーは1993年に誕生した「ディアブロVT」で、それ以前にもランボルギーニは「LM002」という名のオフロード4WDモデルを1986年にリリースしている。 いっぽうで、アウディがランボルギーニを買収したのは1999年。つまり、ランボルギーニはアウディ傘下に入る前から独自に4WD技術の開発に取り組んでいたのである。しかも、買収に先んじてランボルギーニ社内を視察したアウディ関係者は、その磨き抜かれた4WD技術を見て「驚いた」とさえ伝えられているくらいなのだ。 その後もランボルーニは「ムルシエラゴ」、「ガヤルド」、「アヴェンタドール」、「ウラカン」と立て続けに4WDモデルを投入していったのだが、彼らの4WD技術が大きく進化したのは、2019年誕生のウラカンevoを開発したときのこと。このとき、初めて4WD制御に予測技術を投入し、“ドライバーの意図を読み取る4WD技術”を、市場に投入したのである。 これを簡単に説明すれば、ステアリング、スロットルペダル、ブレーキペダルといったドライバーの操作量などから“ドライバーが次になにをしたいのか?”を、読み取り、これに応じて4WDシステムやサスペンション、ブレーキトルクベクタリングなどのデバイスを制御。もしドライバーが“ドリフトさせたい”と。願っていたら、それを瞬時に理解してドリフトが起きやすい状態を作り出せるようにしたのだ。 ウラカンevoには私もサーキットで試乗したが、あたかもドライバーの“心”を読み取っているかのような的確な制御には驚愕した。しかも、私の意思を読み間違えることもなかったのだから、大したものである。 これが3モーター方式のハイブリッド・システムを搭載したレヴェルトではさらに進化。アヴェンタドールでは難しかった、“V12ミッドシップでのドリフト”のハードルを大幅に下げて私たちを驚かせた。そのレヴェルトよりも「ドリフトしやすい」と技術開発責任者が請け負うのだから、さぞかし痛快なハンドリングに違いない。 繰り返しになるが、ここで私が伝えたいのは“ドリフトできるくらい軽快で俊敏なハンドリング“のことであって、“ドリフトできなければクルマじゃない”と、言っているつもりは毛頭ない。その点だけは、留意いただきたい。 いっぽう、V8ツインターボエンジンにくわえて強力なプラグイン・ハイブリッドシステムも得たウラカンSEは、従来型のウルスS(666ps/850Nm)を大幅に上まわるシステム出力800psと、システムトルク950Nmを発揮。0~100㎞/h加速を3.5秒から3.4秒に短縮し、最高速度は従来型を7km/h上まわる312km/hを達成しながら、CO2排出量を80%以上削減する効果があるという点にも注目したい。 なお、これをもって従来型のウルスSとウルス・ペルフォルマンテは受注終了となり、当面の間はウルスSEのみが販売されることになる。
文・大谷達也 編集・稲垣邦康(GQ)