集団パニック、少女同士の殺人…都市ボーイズがA24最大ヒットホラーに見る、オカルトとの付き合い方
“憑依チャレンジ”に参加した若者たちに次々と降りかかる恐怖を描き、今年のサマーシーズンに北米で公開されるやA24ホラー史上最高の興行収入を記録するヒットとなった『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(12月22日公開)。登録者数682万人(2023年12月20日現在)を超えるYouTubeチャンネル「RackaRacka」でYouTuberとしても活躍する双子のダニー&マイケル・フィリッポウ監督が生みだした、新時代のホラー映画だ。 【写真を見る】あまりにも残酷すぎる…本物の降霊会で起きた、無残な少年の末路 本作の日本上陸にあわせて、MOVIE WALKER PRESSでは、都市伝説や怪談、オカルト話に精通する怪奇ユニット“都市ボーイズ”(岸本誠、はやせやすひろ)に直撃取材を敢行。自身らもYouTubeで活動し、かつ降霊術の経験もある2人は本作をどのように観たのか。彼らが体験した驚きのエピソードと共に、たっぷりと語ってもらった。 ■「“リアルに起こりそう”な怖さは、YouTuber出身監督ならでは」(はやせ) 母を亡くした痛みを抱え、父とも折り合いがつかずに寂しさを抱えていた17歳のミア(ソフィー・ワイルド)。ある時彼女は、同級生たちの間で“憑依チャレンジ”という遊びが流行っていることを知り、親友のジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)と共にその集まりに参加する。呪物の手を握り「トーク・トゥ・ミー(話したまえ)」と唱え、霊を体内に招き入れる。しかし90秒以内に手を離して霊を祓わなければ、霊が居座り永久に支配されてしまう。そこで味わったスリルと背徳、そして高揚感にミアはたちまち虜になっていく。 岸本「最初に“YouTuberが作った”という触れ込みを知った時には懐疑的だったのですが、いざ観てみたらホラーとして久しぶりに良い作品だったのでホッとしました。世の中的にはYouTuber出身というのはまだまだ舐められがちなところがあって、実際、YouTube以外でも成果を上げた人はまだあまり多くないと思います」 はやせ「僕らの周りにも映画を作ろうとしているYouTuberの方がいますが、フィリッポウ兄弟という映画監督が出てきたことは、世界中のYouTuberの活動にだいぶ影響を与えるでしょうね」 岸本「やはりYouTuberの一番の強みは、その時々のトレンドを読む力だと思うんです。活発に活動している方たちの多くが、いまなにが求められていて、実際になにが見られるのかをきちんと分析している。しかもフィリッポウ兄弟は本作の制作当時まだ20代だったということで、若い世代の感情をわかっている人たちが撮ったということも、この映画が成功した理由の一つでしょう。 映画に限らずどのメディアでも、10代を描こうとすると“大人が思い描く10代”になりがちです。でもこの映画は作り手が若者に対してリアリティを持っていて、それに合った俳優を選んでキャスティングしたことも一目でわかる。設定もシンプルですし、いまの10代の子たちが“憑依チャレンジ”をやったらこうなるんだろうな、という部分に説得力があって、とてもおもしろく観ました」 はやせ「確かに、この映画の怖いポイントはあからさまに怖がらせるシーンや過激なシーンなどの直接的な描写ではなくて、リアルに起こりそうと思わせるところなんです。その空気感の表現はYouTuber出身監督ならでは。実際、こういう降霊術は世界の至る所で流行っていますからね」 岸本「10代の若者が触れちゃいけないものに触れた時の高揚感って、たぶん全世界共通なんだと思う。僕らも小学生の時に“コックリさん”をやって、ちょっと大人になったような感覚を味わいましたが、あれも一種の通過儀礼みたいなもの。ハイテンションで訳がわからなくなったり、先をまったく見ていない若者の姿が描かれるたびに『こういう奴いた!』って怖くなりました」 はやせ「たしかに降霊会をやっているシーンは、隠し撮りしたものです、と言われても納得できるぐらいリアルだった。登場人物もそれぞれ違った個性があったので、隅っこの方にいる奴はたぶん俺だ!などと当てはめながら観る楽しさもあります。それに主人公のミアが降霊術で亡くなったお母さんと話すシーンでは、妙にうるっと来てしまって…。 先日沖縄に取材に行った際に、亡くなって100日までなら死者と話ができるというユタの方にお会いしたのですが、それに近いものがあるなと。僕ももし大事な人を亡くしたら、周囲の人間を犠牲にしてでも話がしたいと思うだろうし、もっと話したいという欲が出てくるのもすごくわかる。自分ならきっとミアと同じことをするだろうと考えて、グッとくると同時にすごくゾッとしました」 ■「ルールを重んじないと大変なことが起きるというのは、世界共通です」(岸本) はやせ「本作の“憑依チャレンジ”って、これまで映画で描かれてきた降霊術のなかでも一番簡単なんですよね。あの“手”さえあれば、握って言葉を発するだけで降霊できるという手軽さ(笑)。だからこそ、興味本位でこういう遊びに手を出す若者への注意喚起にもなるのかな」 岸本「SNSで拡散されていることを真似して悲劇が起こるというのは、実際に起きていますね。今年の春にコロンビアで女子学生がウィジャボード(コックリさんに似た、欧米でポピュラーな降霊術に用いる文字盤)で招霊術を行って、集団パニックに陥って28人もの学生が病院に運ばれる事件がありましたし、去年にはウィジャボードが原因と見られる殺人事件も起きています。 それは17歳の少年が何者かによって殺された事件なんですけど、捜査を進めていくうちに、その被害者と友だちが遊んでいたウィジャボードに『その男の子を殺せ』と指示が出たという証言があったという。ウィジャボードに参加していたほかの子たちに事情聴取しても言っていることがめちゃくちゃで、ドラッグの可能性も指摘されましたがなにも出てこなかった。事件から1年以上経過しても誰が殺したのかはわからないままだそうです。 本作でも、ルールを破ってしまったがために呪いが発動したままになっているという危険さが描かれています。僕らのところにもルール通りに終わらせなかった結果、変なことが起きたというお便りが届くことがある。儀式をやるうえで手順を重んじないと大変なことが起きるというのは、世界共通で言われていることです」 はやせ「中国で大流行した、“筆仙(ピーシエン)”という降霊術がそのいい例ですね。中国のコックリさんとも言われているんですが、アルファベットなどが書かれた紙のうえで2人が手を握ってその間にペンを挟む。それで決まったフレーズを言うと、そこに死者が降りてくるというものです。これも最後に頭を下げて別れないといけない、12時以降にやってはいけない、“死”について触れてはいけないなど色々なルールが決められています。 20年ほど前にこの筆仙にまつわる事件がありまして、これをやっていた女子学生の一人が『亡くなったお父さんに会いたい』とお願いしてしまった。本作でのミアとまったく同じシチュエーションですね。つまりそれは、死について触れてはいけないルールを破ることになる。すると筆仙が隣の女の子を殺すように彼女に命じて、結果的に本当に殺してしまったのだそうです。事件の真相は不明ですが、これがきっかけで中国国内では一気に筆仙の人気が出てしまって、映画や小説、ゲームまで作られるようになりました。 その後、2014年にもある学校で大きな事件がありました。発端は筆仙をやっていた生徒が恐怖のあまり飛び降り自殺をしたという話がネット掲示板に書き込まれたことでした。のちのち、本当は錯乱状態で病院に運ばれただけだったとわかるのですが、書き込みから数日後には生徒400人以上が怖がって登校しなかったというんです。中国では、人は亡くなると鬼になると言われています。つまり、筆仙をちゃんと終えていなかったから、学校に鬼がうろついているんじゃないかという噂だったんです」 岸本「大昔にはラジオドラマの影響でパニックが起こったという話もありましたが、わずか10年前というのが怖いですよね…。やはりSNSの影響というのが少なからずあるのではないかと思っています」 ■「オカルトに触れるうえで大事なのは、盲信しないこと」(岸本) はやせ「僕らも前にコックリさんやったことがありましたよね?なぜかうちの奥さんの実家の仏壇の前でやったんですけど(笑)、僕らのほかにもう1人いて、『この3人のなかで誰が売れますか?』って訊いたら、そのもう1人の名前に近付いていくので『お前動かしたやろ!』って(笑)」 岸本「やっぱり動いた時には信じられなくて、疑心暗鬼になるものです。本作でもそんなシーンがありましたが、実際に体験すると途端になんにも言えなくなる。それは本当に体験した人ならわかることだと思います。例えば、日本に昔からある“百物語”も降霊術の一つですよね。人々が集まって怪談を話して、百の蝋燭を一つ一つ消していく。最後の蠟燭を消した時、暗闇のなかに霊が降りてくるというものです。以前、ある番組で本当に百人が集まってやったことがあったんですが…」 はやせ「懐かしい…(笑)」 岸本「僕とはやせ以外の多くが若手の芸人さんたちだったので、みんな前に出ようと派手なリアクションをするんです。でもそれをやればやるほど収録時間が延びるし、たいしてなにも起きないからみんなどんどんイライラしてきて(笑)。廃病院のような場所でやったんですけど、終盤には爆音でお経が聞こえてくる演出が…。もう疲れ切っていて誰もリアクションしないし、正直『この企画ダメだな』って僕も呆れていたんです。 収録が終わってから、仲良い芸人さんと一緒にファミレスに行って打ち上げをしたんですが、もう悪口しか出てこなくて(笑)。その時に、僕がふと『お経のくだりが特に酷かったよな』って言ったら、みんなきょとんとした顔をするんです。どうやら僕以外の誰もお経を聞いていなかったと…」 はやせ「僕は収録中、一晩ずっと隣にいたんですけど、終わり際に岸本さんがずっと『うっせえよ』って言っていて。たしかにその時若い芸人さんがちゃらけていて、それがやかましいのかなと思っていたんです。そしたらファミレスで急に『お経』とか言い出して。なに言ってるんだ?って」 岸本「あの場で唯一起きていたことをスルーしてしまっていたんです(笑)。なにか起きたら手を挙げてくださいと言われていたんですが、さすがにその状況で『お経が…』とか言うのものなんだか恥ずかしくて。ですからそのエピソードはオンエアには使われていなくて、悪いことをしてしまったなと、ちょっと反省しています」 はやせ「先ほど言ったように、この映画は軽率な“遊び”への注意喚起になると思っています。ですが、一方でこの映画を観て実際に降霊術をやってみようと思う人も出てくるでしょう。僕らから言えることは、亡くなっている方へのリスペクトだけは絶対に忘れてはいけないということです。あと、注意やルールはちゃんと守ったほうがいい」 岸本「この映画のなかでもそうですけど、降霊術をやる方には2種類がいると思います。一つは興味本位の肝試し感覚でやる人、もう一つは本当に死者と話がしたいと思っている人です。前者に関して言えば、若者のなかにこういうものへの興味はなくならないと思うし、あって然るべきだとも思います。気を付けた方がいいのは後者の方です。真剣にやっている方がのめり込んでしまったり、依存したりということが起きやすい。そういう方は、降霊術がきっかけでスピリチュアルな世界がすべてになってしまい、バランスを崩してしまう傾向があります。 降霊会で起こることのすべてが正しいわけではありません。オカルトに触れるうえで大事なのは、盲信することなく、ちゃんと客観的な視点とか自分の考えを持ち続けることではないでしょうか」 取材・文/久保田 和馬