17年連続1位…!日本一長寿の村「作業が終わったら野外でビール」長生きの秘訣は〝ゆいまーる〟精神
日本は世界1位の長寿の国として知られている。 WHO(世界保健機関)によれば、日本の平均寿命は世界最高の84.3歳だ。男女別に見れば、男性は81.5歳(世界2位)、女性は86.9歳(同1位)となっている。 【閲覧注意!】大量の糞の入った袋に尿の入りペットボトル…高齢者の孤独死「生々しい現場」写真 そんな日本で、「長寿の村」として有名なところがある。沖縄県の北中城村だ。 村の女性の平均寿命は89歳。日本では2000年から5年ごとに市区町村別の平均寿命を出しているが、初年度が2位だった以外は、2005年から17年にわたって長らく1位の座を守ってきた。 なぜ、北中城村は長寿の村になったのか。高齢者の孤立の問題を描いたルポ『無縁老人』(石井光太、潮出版社)から引用する形で、その秘密に迫りたい。 北中城村は、東京でいえば千代田区くらいの広さだ。人口は1万7888人。海と丘に囲まれ、潮風を含んだ温かな風が吹きつける村である。最近は本土からの移住者たちも増えている。 村長の比嘉孝則氏は言う。 「これまでいろんな学者やお医者さんが村の長寿の秘訣を調べてきました。一般的に言われているのは、村にあるいくつかの要素が合わさって長寿が実現できているということです。私がそれを支える精神的な要素として挙げたいのが、村の人たちの中にある〝ゆいまーる精神〟です。お互いに助け合うとか、団結するといった意味で使われる言葉です。 その昔、村にはサトウキビを栽培している農家がたくさんあったんです。サトウキビは年に4回も収穫の時期があるのですが、一家族だけでは人手が足りない。それで収穫の時は近隣の人たちが力を合わせてお互いの畑の収穫をするのが習慣になっていました。こうしたこともあって、住民同士の絆が強く、助け合うのが当たり前という考えが根付いているのです」 実際に村を回っていて感じるのは、住民の関係性の良さだ。村には、「カー(井泉)」と呼ばれる公共の井戸のようなものがあり、そこにベンチが備え付けられたり、小さな公園になっていたりする。村人たちは午前中からそのような場に集い、世間話に花を咲かせているのだ。 ◆戦争により無一文で人生を再建 ちなみに、カーのような公共空間の花壇の整備をしているのは、地元のボランティア団体「花咲爺会」だ。主に高齢の男性が月に2回集まり、公園や空き地に花を植えるのである。メンバーの楽しみは、作業が終わった後に野外でビールを飲むことだという。 比嘉氏は言う。 「女性の長寿ということでいえば、村では昔から婦人会の活動が活発でした。太平洋戦争が終わった時、大勢の女性たちが夫や家を失って、無一文で人生を再建しなければならなかった。特によその村から嫁いできた女性たちは、親戚や友人も少なかったので心細かったはずです。 そうしたこともあって、女性たちの間で団結してがんばっていこうという機運が高まり、婦人会を中心にしていろんな活動が活発化していった。サロンなんかもかなりできて、今もそれが残っているのです」 実際に、北中城村の幸福度は52.8%となっている。全国平均の44.63%と比べるとかなりの高水準だ。 村人はどのようにつながっているのか。そのことを知るために足を運んだのが、村に数多あるサロンの1つ「サロンとみなが」だった。 北中城村でいうサロンとは、高齢者が自宅で開催するコミュニティーのことだ。村は住民たちが自らサロンを立ち上げることを後押しし、そこで要介護化防止のための「スクエアステップ」という体操を行うことを推奨している。高齢者が集まってお互いの見守りをしながら、体操によって健康を維持しようというわけだ。 サロンとみながの主催者は、富永みさ子氏(78)だ。自宅でサロンを開いており、近隣に暮らす80代~90代のお年寄9名が自主的に参加している。サロンで行われるのは次のようなことだ。 ・午前9時過ぎに高齢者たちが富永氏の自宅に集合 ・村歌斉唱 ・ラジオ体操 ・口の体操 ・お茶休憩 ・スクエアステップ体操 ・11時まで談笑して解散 富永氏は、村役場を退職後に民生委員をしていた時、高齢者の居場所が不足していることに気がついた。それで自宅を開放してサロンを行うことにしたのだという。 彼女は話す。 「みなさん、なんだか楽しそうな集まりだから参加しているといった感じです。一番の目的は、体操をするより人と会ってしゃべることだと思いますよ。だから、うちではお茶の時間を大事にしているんです。定期的に対面でおしゃべりをしてニコニコ笑う時間は誰にとっても必要ですからね」 たとえば、参加者の1人に足の不自由な男性がいる。彼は毎回杖を突いて自宅から何十分もかけて歩いてやってくるそうだ。ただし、体操はあまり好きではないので、おしゃべりの時間だけ参加し、持参した温かいコーヒーを飲みながらひとしきり談笑し、満足そうに帰っていくという。 富永氏はサロンの日以外でも、積極的にこうした利用者とかかわっている。二世帯住宅で子供家族とうまくいっていない人には、サロンのない土日でも家に招いて一緒に過ごし、生活が困窮している人には自分が読み終えた新聞を届ける。 彼女は言う。 「私には利用者さんを支えているとか、助けているといった意識はまったくありません。むしろ、私の方が利用者さんとつながることによって支えられていたり、多くを学ばせてもらっていたりします。私にしてみれば、他人のためというより、自分のためにやっている側面がある。だからつづけられるのだと思います」 富永氏の子供はすでに独立しており、夫も他界してるため、一軒家で独り暮らしをしている。時には寂しさを感じることもあるだろう。そんな時に、サロンを拠点にして広まった人間関係が活きるのだ。 では、村で生きる長寿の人たちはどんな思いで生きているのだろうか。村で行われている高齢者版「ミスコン」も含めて【後編:日本一の長寿村「海外旅行やギター演奏」高齢者の驚きの趣味】で詳しく紹介したい。 取材・文・PHOTO:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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