正しいPU開発は正しい手段で。HRC角田LPLが語るF1ルール刷新に向けた既存メーカーの利「新規参入組にはホンダが復帰した時より時間はあるが……」
ホンダ・レーシング(HRC)のF1プロジェクトでラージ・プロジェクトリーダーを務める角田哲史エグゼクティブエンジニアは、2026年シーズンのテクニカルレギュレーション刷新における既存パワーユニット(PU)メーカーのアドバンテージとして、インフラの充実と開発プロセスのノウハウを挙げた。 【動画】ついにホンダがF1参戦継続を発表!アストンマーティンとともにF1世界タイトルの獲得に挑戦|復帰発表会見 F1では2026年からテクニカルレギュレーションが大きく変更され、電動パワーの割合が増えるPUが使用される。構成はV型6気筒エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせる従来PUと同様だが、熱エネルギー回生システム(MGU-H)が廃止される。一方で運動エネルギー回生システム(MGU-K)の出力が引き上げられ、内燃エンジンと電動モーターの出力比率は50対50となる予定。エンジンで使用される燃料もカーボンニュートラル燃料100%となる。 それを機にアウディがPUメーカーとして新規参戦することを2022年8月に発表。レッドブルも独自のPU部門であるレッドブル・パワートレインズ(RBPT)を設立し、電動領域ではフォードと手を組むこととなった。ゼネラルモーターズ(GM)も2028年からのPUマニュファクチャラー登録を済ませており、傘下ブランドであるキャデラックを介し、アンドレッティと手を組んでF1新規参戦を目指している。 大手自動車メーカーが楽観的な判断でF1への新規参戦を決めるはずはなく、2026年シーズン以降の勝機や成功を見込んでいるはずだ。レギュレーション刷新が新規メーカーをシリーズに呼び込む上で大きな要因となっているのは間違いなく、HRCの角田LPLが次世代PUは従来とは「全く異なるモノ」と語る通り、既存メーカーにとってもその開発は大きな挑戦となる。 しかしPUの開発・製造プロセスやインフラという面においては、既存メーカーが新規参戦メーカーと同じ苦労を味わうことはないと角田LPLは考えている。 「結局のところ、ルールの代変更は、F1の勢力図を大きく変えるためのものです。そうしないと新しいチームにとっては不利になるので、次世代PUは全く異なるモノになります」 先日行なわれたHRCの取材会で角田LPLはそう語った。 「ただそうは言っても、例えば(既存PUマニュファクチャラーには)ある程度インフラが揃っていたり、開発の段取りが分かっていたりします」 「我々も新たにバッテリーパックを組み立てる工場をHRC Sakuraに作らなければいけませんが、同じようなことをPU全体でやらなければいけない人たちは、大変だと思います」 「そのぶん(新規参戦メーカーは)ダイナモを使える時間で少しハンディキャップをもらっていたり、予算制限でハンディキャップをもらっていたりという部分はあります。全員がどう納得したのかは分かりませんが、『3年あげるから新しいことを始めてね』という風にレギュレーションはなっていると思います」 2026年シーズンに向けて残るは2年。アウディやRBPTといった新規参戦メーカーも、急ピッチで次世代PUの開発を行ないつつ、インフラ設備の拡充や人員の採用を行なっている。 アウディやRBPTら新規メーカーも、高いパフォーマンスを発揮できるPUを2026年に用意できると思うか? と尋ねると角田LPLは次のように答えた。 「どうでしょうね? 個人的にはそうなると思っています」 「アウディが参戦すると言ったのが2022年の夏で、3年以上の準備段階があります。ホンダが(2015年に)参戦した時よりもちゃんと時間は取れていると思いますよ」 「またヨーロッパは人材が循環していて、ある程度ノウハウを持った人が色々と流れているので、そういった面も関係してくると思います」 「しかし、社内のインフラを整えるというのもやはり並大抵のことではありません。ベンチひとつをとっても、導入したからといって100%の開発能力になるかと言ったらそうではありません。色々なモノをセッティングする必要がありますし、それに伴うモノの信頼性が必要になります」 「我々の経験で言うと、(PUの)耐久テストはダイナモの耐久テストでもあったんですよ。これはレースエンジンの信頼性の確認をしているのか、ベンチの信頼性を確認しているのか……そういった時期もあったので、(新規参入の面には)そういう難しさがあると思います」
滑川 寛
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