「HPVワクチン」に疑問を持つ人が知らない事実、一部の自治体では男性への接種補助もスタート
いまわかっていないのは、50歳以降に好発する中咽頭がんを防ぐには、何歳までにHPVワクチン接種を受ける必要があるのか? ということだ。 女性の子宮頸がんは25歳からが好発年齢だ。性交渉を経験してから10年ほどで発病するため、比較的短期間でワクチンのがん予防効果が明らかになった。スコットランドやオーストラリアなど、男子にもHPVを接種している国では、あと30年ほどすると男性の中咽頭がん好発年齢となり、予防効果が明らかになるかもしれない。一方、接種から長い期間が経っており、予防効果はないかもしれない。解明が待たれるところである。
女性と同様に、感染してから10年ほどでがんが生じるのならば、30~40代でHPVワクチンを受けた男性を登録して10年ほどフォローアップすれば、HPVワクチンによる中咽頭がんの予防効果が早めに確認できるかもしれない。 ■ワクチン接種率を高めるための対策 世界では、多くの国で高いHPVワクチン接種率が記録されている。ただし、ワクチンの費用が高いため、1回接種でも効果がありそうだ、という研究報告がなされ、世界では低~中所得国を中心にHPVワクチン1回接種の有効性を検証する動きが始まっている。もし接種が1回で済むとなれば、日本でも複数回の接種が必要なことでためらっている人も打ちやすくなるだろう。
また、日本でHPVワクチン接種率を高めるために私が必要と考えるのは、接種可能医療機関から自治体の縛りを外してしまうことだ。 住んでいる市や町に医療機関が少ない場合がある。また、中高生が自力で行くには、交通の便と医療機関の診療時間を考えると、学校の近くのクリニックのほうが接種を受けやすいだろう。現時点では多くの自治体が、住民票のある自治体の中にある医療機関でのみ、公費の接種を認めている。 物理的なアクセスの悪さが接種率を低迷させているならば、何とももったいない話だ。接種可能医療機関の自治体縛りを撤廃しても、自治体の手間は何ら増えないだろう。方々の医療機関から来た請求書を処理すればいいだけだ。本気で子宮頸がんを減らそうと首長が考えているならば、ぜひ前向きに考えていただきたい。
久住 英二 :内科医・血液専門医