スタジオジブリの歴史は「世代交代に失敗した歴史」 宮崎吾朗監督がジブリの現状と今後を語る:第77回カンヌ国際映画祭
一方で、駿監督は昨年の『君たちはどう生きるか』公開後、すぐに次回作の構想を考え始めていると伝えられている。しかし、駿監督は具体的なことは秘密にしているといい、「言わないんですよね。絶対、誰にも言わないですよ」と吾朗監督。「あの年になっても、周りのアニメーターは全員ライバルなんです。年下だろうが、自分を支えてくれるスタッフだろうが、社内であろうが社外であろうが、アニメーターと名前が付いたら全員ライバル。だからそういう人たちに、うっかり自分の企画を話さないようにしているんです。やっぱり『これだ』というものになるまでは、明かさないんです」
ジブリの今後について問われると、「どうなるんですかね、全然わからないんです。結局、ジブリの歴史は、世代交代に失敗した歴史なんですよ」と切り出した。「宮崎駿が最初に長編から引退すると言ったのは、『もののけ姫』(1997)の後。ジブリ美術館を始めようと言ったのも、世代交代のためだったんです。俺も引退するから、年取ったアニメーターも全員引退しろ、と。引退して働く職場として、ジブリ美術館を用意してやるから、お前らも一緒に引退するんだぞ、と。余計なお世話なんですけどね(笑)。結局、そうはなりませんでした。そこから始まって都度、都度、次にどうやって手渡していくのかという話をしつつ、結局今でも宮崎駿と鈴木敏夫(プロデューサー)がやっているわけですし、スタジオの大事なことに関して言うと、やっぱり彼らが決めるというところが大きいので、どうなんですかね? 二人がいなくなったら、あらためて考えればいいんじゃないかなという感じです」と笑った。
それでも近年、世界におけるジブリのファン層はどんどん広がっている。2020年にNetflixが日本、アメリカ、カナダを除く世界190の国と地域でジブリの過去作の配信を始めたことで、初めてジブリに触れ、その虜となる人が続出した。「ここまで広がるとは思っておらず、僕らの方が驚いているのが正直なところです。オープン時のジブリ美術館では、海外からの来館者といえば韓国か台湾か香港かフランスだったんです。ヨーロッパはフランスだけでした。それが今はヨーロッパ中です。ジブリパークも同様で、アジアも全域になっています」。もはや、ジブリが充電期間を終えるのを心待ちにしているのは日本だけではない。世界から熱い視線が注がれている。(編集部・市川遥)
第77回カンヌ国際映画祭は現地時間5月25日まで開催