センバツ高校野球 明秀日立あと一歩 白熱投手戦に温かな拍手 /茨城
あと一歩、惜しかった――。第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)大会第8日の27日、明秀日立は市和歌山(和歌山)と対戦し、1―2で惜敗した。白熱した投手戦の中で全力を尽くしたナインに、アルプススタンドの保護者や生徒ら約600人から温かな拍手が送られた。【長屋美乃里】 好投手同士がぶつかった2回戦は、予想通りの投げ合いとなった。猪俣駿太(3年)と市和歌山の米田天翼(同)はお互い一歩も引かない力投で、五回まで両チームともほとんど二塁を踏めない展開が続く。相手投手のコースや球種の分析で明秀日立の躍進を支えてきた「データ班」の冨岡拓矢(同)は「分析通りだけど、米田君の調子は良い」と固唾(かたず)をのんで見守った。 先に試合を動かしたのは明秀日立。六回表の先頭打者、本坊匠(同)が「狙っていた」という内角のスライダーを振り抜くと、続く平野太智(2年)がバントを決めて1死三塁に。3番・石川ケニー(3年)の中前適時打で先制点を奪った。本坊の父進一さん(53)は、息子の帰塁に「努力が実った」と感慨深げだった。 しかし、その裏には相手打線が粘って同点に。吹奏楽部部長の福田優衣さんは「見ていてハラハラする。(点を取ったときに吹く)『ヨイヨイ』をもっと演奏させてほしい」と願いを込める。 続く七、八回は、猪俣の渾身(こんしん)のピッチングで市和歌山は3者凡退。父肇さん(49)は「よく踏ん張ってくれている。粘り負けしないで」と見守った。 終わりは唐突に訪れた。九回裏、市和歌山は申告敬遠などで1死一、二塁となると、米田がフォークボールを振り抜き、打球は右中間に。サヨナラ負けに、猪俣は「『抑えに行こう』と逃げの意識になってしまっていた。持ち味の直球で押せていたら」と悔やんだ。 後輩たちの活躍を見守っていたOBの十河駿さん(19)は「夏にまた来て、次こそ大阪桐蔭を倒してほしい」とねぎらった。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇攻守で見せた意地 明秀日立・石川ケニー主将(3年) 二回裏、フェンスに激突しながら飛球をキャッチ。六回には右翼から三塁へのレーザービームのような送球で客席をどよめかせた。けがでマウンドを離れながらも、強肩とガッツで意地を見せた。 グラブに刺しゅうされているのは、ハワイ語で「家族」を意味する「Ohana」の文字。ハワイの独立リーグでプレーしていた父則良(のりき)さん(48)が見守る中、適時打や好守で活躍した。 「野球部で一番声を出す男」として部員からの信頼も厚いが、主将就任当初は自分以外に声出しするメンバーはおらず、「孤立」状態が続いた。 事態打開のきっかけは、格下チームと引き分けた練習試合だった。ふてくされた態度を取る副主将の武田一渓(3年)と口論になると、涙を流しながらチームのあり方を訴えるうちに、メンバーも心を開いていった。 この日も試合前から声を張り上げ、円陣のナインを鼓舞。あらゆる面でチームを引っ張る主将は、「もう一度みんなにプレーを見てもらえるように、ここからもう一回頑張りたい」と誓った。