明豊3投手が全幅の信頼 簑原捕手「夏は日本一」選抜高校野球
第93回選抜高校野球大会決勝戦。同点で迎えた九回裏1死満塁のピンチ。高めに浮いたボールをはじき返された。遊撃手を襲った打球が外野に抜ける。それを見届けた明豊の簑原英明捕手(3年)は腰に手をやって一瞬、悔しそうな表情を浮かべたが、すぐ気を取り直すように足元のキャッチャーマスクを拾い上げた。 【明豊vs東海大相模】大熱戦の決勝を写真で このセンバツで明豊は市和歌山、智弁学園(奈良)、中京大中京(愛知)と優勝候補に挙げられていた強豪を連破した。快進撃の原動力になったのが京本真、太田虎次朗、財原光優(いずれも3年)の3投手。今大会から投手の球数が「1週間500球以内」に制限され多くの学校が神経を使う中、先発もリリーフもできる投手が3人もいるのは明豊の強みだった。 ただ、3人は投球スタイルも性格も三者三様。それぞれの特性をつかんで力を引き出すのは容易ではなく、簑原捕手は投手陣とのコミュニケーションに心を砕いてきた。「京本は強気な性格なのでこちらも逃げの配球はしません。太田はテンポよく投げさせてペースに乗せてやる。財原は強い気持ちを引き出すリードを心がけています」 そんな相棒役に京本投手は「僕の一番の理解者」、太田投手は「僕の精神状態を見抜いていつも的確な声かけをしてくれる」、財原投手は「勝負どころで納得できる配球をしてくれる」と全幅の信頼を寄せる。明豊は昨秋の九州地区大会からセンバツまで計8試合で無失策。その中心には野手陣が「守りやすい」と口をそろえるバッテリーの安定感があった。 決勝の先発は太田投手。簑原捕手は打者にちらりと目をやるとすかさずサインを出し、どんどん投げさせた。リズムに乗った太田投手は連投の疲れを感じさせず7回2失点の好投。「ピンチでも落ち着いて投げられた」。太田投手は試合後の取材にそう答え、簑原捕手のリードに感謝した。 「体がごついから」。中学時代に捕手を任されたのはそんな単純な理由だった。しかし、自分の差配でゲームを動かせる捕手の面白さに取りつかれてからは理論を磨いた。「いつも野球の本を読んでいる」。他の選手らはそう言って舌を巻く。今大会、明豊ナインが強豪に臆せず立ち向かえたのは、そんな簑原捕手が扇の要にいたからだ。「夏は日本一に」。そう語る表情は「次の戦いは始まっている」と言わんばかりだった。【辻本知大】