多種多様な商品が発売されているカップ焼きそば

Ｑ．世界初のカップラーメンは日清食品の『カップヌードル』。では、世界初のカップ焼きそばは？ 【みんな大好き！】カップ焼きそば"四天王"　各社トップ商品がズラリ！一覧 この質問に答えられる読者諸兄は、ほとんど存在しないはずだ。 それもそのはず、今から50年前の’74年７月に発売されたカップ焼きそば第一号の名は、『エビスカップ焼そば』。とうの昔に生産が終了しており、販売元の恵比寿産業は倒産している。カップの形状は平らな四角形ではなく、『カップヌードル』と同じ円柱型だったという。 「恵比寿産業に触発され、’74年８月にはヤマダイが『ニュータッチ焼きそば』、12月にはエースコックが『カップ焼そばBanBan』を発売。翌’75年にも４～５ブランドが投入されるなど、カップ焼きそばは黎明期から怒涛(どとう)の参入ラッシュでした」（経済専門誌記者） ’71年にカップヌードルが発売されてからわずか３年後に、なぜ空前のカップ焼きそばブームが起こったのか。即席麺専門店『やかん亭』を運営するインスタント麺ハンターの大和イチロウ氏はこう解説する。 「当時、権勢を振るっていたのはカップ麺よりも安価な袋麺でした。ところが’73年10月、第四次中東戦争が勃発。その影響でオイルショックが起き、激しい物価高騰が起こりました。これにより、消費者は買い控えをするようになった。袋麺は利益率が低いので、消費者が買い控えのモードに入ると不利になる。一方でカップ麺は利益率が高いので、多少販売数が落ちてもダメージが少ない。こうして各社は、カップ麺に力を入れるようになりました。ただ、カップラーメン業界では、すでに日清を頂点とした熾烈な争いが激化していた。次なる舞台として焼きそばに注目が集まったのです」 かくして勃発したカップ焼きそば戦争において、初期から存在感を発揮しているのが、まるか食品の『ペヤングソースやきそば』（’75年発売）だ。ヤングな二人がペアで分け合って食べる焼きそばという意味で名付けられた『ペヤング』は、現在もファンの多い超ロングセラーで、関東地方では売り上げナンバーワンだ。 「ほとんどのカップ焼きそばの麺は植物油で揚げていますが、ペヤングの揚げ油にはラードも入っている。お湯で戻したときに動物性の油脂分が麺から染み出てコクが出る。麺には醤油が練り込まれており、付属のふりかけにはゴマまで入っている。全体のハーモニーで食べさせる、バランス型の逸品です」（自作ラーメン研究家の神田武郎氏） まるか食品は群馬県に本社を構える企業で、事業規模は日清などに比べればはるかに小さい。しかし、″ペヤング一本足打法″とさえ形容できる経営で、業界に確固たる地位を築いている。 「まるか食品は無借金経営を続けていて、かなり財務状況がクリーン。’14年に消費者がＳＮＳに『ペヤングにゴキブリが混入していた』と投稿して炎上した際は、全製品を自主回収し、生産中止に踏み切りました。生産ラインの見直しなどに約６ヵ月もの時間を要しましたが、すべての従業員に給与を支払って危機を乗り越えたのです。普通の企業だったら倒産してもおかしくないほどの事件を乗り越えた同社には、業界内から賛辞が送られました」（前出・大和氏） 『ペヤング』のヒットにより、カップ焼きそばの栄光の歴史は始まった。しかし、即席麺業界の王者・日清食品は意外にも、この波に乗り遅れていた。 『ペヤング』が発売された’75年、日清は焼きそばではなく「カップライス」に注力していたのだ。「エビピラフ」や「赤飯」などさまざまなフレーバーで打って出たが、これは大失敗に終わる。さらにはオイルショックも重くのしかかり、日清は窮地に立ったという。 「カップライスに見切りをつけた日清は、’76年４月にマーケティング部を新設し、同時期に新たなカップ焼きそばを作ることを決定。初代部長には創業者である安藤百福氏の次男で現日清食品ＨＤ社長の安藤宏基氏（76）が就任しました。安藤氏はまず、カップ焼きそばの容器開発から始めたそうです。かくして『カップヌードル』のような縦型でも、『ペヤング』のような角型でもない、丸型の容器が生まれました。その新商品は『(Ｕ)うまい、(Ｆ)太い、(Ｏ)大きい」の三拍子が揃った『Ｕ.Ｆ.Ｏ.』と名付けられ、同年５月に発売されました』（大和氏） ◆味の好みに地域差あり 日清マーケティング部は宣伝にも力を入れ、翌’77年にピンク・レディーをＣＭに起用。ヒット曲『ＵＦＯ』とともに、『Ｕ.Ｆ.Ｏ.』も売り上げを伸ばした。 現在でもこのマーケティング力は発揮されており、日清は若年層向けに「爆盛」、健康志向の層には「完全メシ」と、異なる層に訴求している。 「麺が直径２㎜と各社の中で最も太く、ソースはお好み焼き屋で食べるような濃厚で甘い味付け。他社とは違い、アルミパウチにソースを入れることで香りを逃がさない工夫もしている。他社はナイロンパウチで、こちらは低コストですが香りが逃げてしまいます」（前出・神田氏） 『Ｕ.Ｆ.Ｏ.』は、関西、中国、四国地方で売り上げナンバーワン商品だ。 「関西の人々は甘くて濃厚なソースを好み、関東の人はあっさりしたソースを好む傾向にある。関東の人が『Ｕ.Ｆ.Ｏ.』を食べると『なんだか甘いな』と感じ、関西の人が『ペヤング』を食べると『甘さがなくて物足りない』と感じることも多いのです」（前出・大和氏） 「マヨビーム」でおなじみの『明星一平ちゃん夜店の焼そば』（明星食品、’95年発売）は、濃厚な関西好みの味付けと、キレのある関東好みの味付けを掛け合わせている。 「ソースは濃厚ですが、ローストされたような苦みで夜店の焼きそばを再現し、さらにからしマヨネーズで辛味を足して味にキレを出している。濃厚でありながらあっさり派の関東人にも受け入れられやすいのです」（前出・大和氏） こうした″地域差″に着目し、戦略的に勢力を伸ばした企業がある。東洋水産だ。即席麺評論家の大山即席斎氏が話す。 「西の『Ｕ.Ｆ.Ｏ.』、東の『ペヤング』と言われていますが、北海道では『やきそば弁当』、東北では『焼そばBAGOOOON』が圧倒的人気。どちらも東洋水産の商品で、地域限定です。これらの特徴は、粉末スープが付属していること。湯切りしたお湯で温まれることが、寒い地方の人々にはとても嬉しいんです。とくに北海道では、『カップヌードル』をも抑えて『やきそば弁当』が即席麺の売り上げ数ナンバーワンなのです」 『やきそば弁当』には細麺に甘いソース、『焼そばBAGOOOON』には弾力のある麺にウスターソースと中濃ソースを合わせたブレンドソースと、それぞれの地域に好まれる味付けがされている。 東洋水産は東北と北海道での絶大な支持を背景に、カップ焼きそばの総合販売量では全国ナンバーワン企業だ。 ある者は関西を制し、ある者は関東を制し、ある者は北を制す――。初のカップ焼きそば発売から50年間、各社はそれぞれの根城で覇権を握った。次の50年で、濃厚で香ばしい戦いの舞台は全国に拡がっていくだろう。 『FRIDAY』2024年7月19日号より