藤田菜七子騎手（2022年撮影）

　あまりにもあっけなく、突然すぎる幕引きだ－。JRAは11日の午後4時、藤田菜七子騎手（27＝根本）の引退を発表した。16年3月に16年ぶりに誕生したJRA生え抜きの女性ジョッキー。7月にはJRA職員との結婚を発表し、「現役を続けます。より一層競馬に精進してまいります」と語っていた菜七子がターフから、馬上から、応援してきたファンの前から姿を消すことになった。 　　　　◇　　　◇　　　◇ 　大騒動に揺れていた。9日に一部週刊誌電子版が23年4月以前に調整ルーム内で他者と複数回通信を行っていたことを報じ、調査対象となっていた。JRAは7日から接触を試み、9日夕方に当該事案が事実であることを確認。重大な非行であることが認められ、11日から裁定委員会の議定があるまで、同騎手の騎乗を停止していた。 　週刊誌報道に端を発した調査で、藤田騎手の虚偽申告が発覚した。JRAは昨年5月、若手騎手6人がスマホ関連で処罰を受けた際に全騎手対象の聞き取り調査を個別に実施。その場では藤田騎手のYouTube、ツイッター（現X）閲覧が判明し、厳重注意処分となっていた。だが、実際には公正確保のために禁止されている外部にいる他者との通信も明らかになった。読み合わせ、署名、押印を伴う当時の調書とは相違のある申告でもあり、重い処分が控えていた。JRAの松窪隆一審判部長は「現状は当時の申告はうそだったという認識。（裁定委員会行きの）申し渡しをしたのが10日の昼前。その際にやめたいとのことでした」とやりとりを明かした。 　急転直下の引退劇だった。引退発表前日の10日、藤田騎手は視界をゆがませながら引退届にペンを走らせていたという。師匠の根本康広師（68）の万年筆を手に、無念をにじませながら。女性騎手として19年フェブラリーSで初めてのJRA・G1騎乗、同年カペラSで初のJRA重賞制覇を成し遂げた。常に掲げた思いは「次の1勝」。松窪審判部長は「個人として」と前置きし、「女性ジョッキーとして大いに競馬を盛り上げてくれた1人。非常に残念です」と寂しげに言った。JRAの女性騎手として史上最多166勝。後進の目標となったパイオニアは、静かにムチを置くことになった。【松田直樹】 　＜！－nextpage－＞ 　◆藤田菜七子（ふじた・ななこ）1997年（平9）8月9日、茨城県守谷市生まれ。小学校6年生の時にテレビの競馬中継を観戦し、騎手を志した。13年4月にJRA競馬学校（32期生）へ入学し、16年2月に卒業。師匠はダービージョッキーの根本康広調教師。デビュー当時の趣味は読書と音楽鑑賞で、お気に入りの作家は伊坂幸太郎、好きな歌手はEXILE、ONE DIRECTION、尊敬する人は坂本龍馬、座右の銘は正々堂々。空手は黒帯、剣道は2段。デビュー2年目の17年には年間14勝でJRA女性騎手の年間最多勝記録を20年ぶりに更新。日刊スポーツ新聞社制定の中央競馬騎手年間ホープ賞に輝く。19年6月にスウェーデンで行われた女性ジョッキーズワールドカップで総合優勝。同年に英国の騎手招待競走「シャーガーC」に選出され、今年は2度目の出場となった。デビューからJRA通算166勝（うち重賞1勝）。