朝ドラ『ブギウギ』での好演が話題!銀幕女優・田中麗奈が「地上波ドラマを席巻する日」
連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合ほか)に女優の田中麗奈(43)が出演していた。戦後の有楽町でいわゆる街娼として働く女性たちのリーダー役だった。彼女の演技を見ながら、やや違和感を覚えた。それは悪い意味ではなく、トピック性のある「田中麗奈が朝ドラに出ている!」という良い意味だ。 【大胆写真】田中麗奈・胸元ざっくりの黒ドレスで向かった先とは……? この感情を覚えたのは私だけではなかったようで、SNS上も「おミネさん!(田中の役名)」「田中麗奈だ~!」と歓喜にわいていた。朝ドラで彼女の姿を見て改めて魅力的な女優だと思い、なぜ世間は彼女の魅力に吸い込まれるのかを考えたくなった。 ◆鮮烈に記憶に残った『なっちゃん』のCM 田中麗奈の名前から連想する最初の記憶はなんだろうと辿ると……浮かんできたのは、だいぶ古くて恐縮ではあるが、’98年に放送されたサントリーのCM『なっちゃん』だ。26年経った今でも販売されているジュース。鮮やかなオレンジ色の下地に、黒で描かれたスマイルマークのパッケージは健在だ。 当時、高校生でショートカットだった彼女が『なっちゃん』という新人女優に扮し、いくつかの困難を越えて成長していく物語仕立てのCMだった。まだ、地上波から発せられる情報が一番大事にされていた時代で、CMに対する注目度は高く、「あの子は誰だ?」と田中麗奈の美しさが広まっていく。 幼い頃から女優を目指してきた彼女が、演技のメインステージに選んだのは映画だった。’95年の『スーパー・ハイスクール・ギャング』の出演から振り返ると、あくまで目算ではあるが現在までに約50本の映画に出演している。テレビドラマは衛星放送や動画配信も含めると約40本。 やはり田中麗奈は映画の女優だ。映画は一般人からするとスペシャルなものである。ひとつの作品に興味を持ち、家から出かけて、チケットを購入して、ようやく鑑賞できる。昨今、動画配信サービスで映画が簡単に観られるようになったとはいえ、月額料金はかかるのだから地上波とは気楽さが違う。 ◆令和の銀幕スターの愛読書とは? ここまでの田中の経歴を辿ると、地上波ドラマの視聴者とは乖離がある。それなのに、彼女の名前と美しさが記憶に残っているのはなぜだろうか。 理由のひとつとして挙げたいのが「彼女の人生のすべてが板の上の人」なのだろうということ。それから「女優業に対する凛とした覚悟がある」こと。この記事の執筆にあたって、彼女を調べていくうちに、雑誌『美ST』のインタビューに出会った。そこで彼女が人生のバイブルとして挙げていたのが、昭和の名女優・高峰秀子の著作『高峰秀子 かく語りき』(文藝春秋刊)だ。 全576ページの分厚い一冊は、文筆家としても知られた高峰の名だたる文化人との対談集。志賀直哉、谷崎潤一郎、越路吹雪に田中絹代、ドナルド・キーンや井上ひさしなど、錚々たる人物たちが名を連ねている。ほとんどが故人のため、今となっては史書と言ってもいい。 表舞台では毅然としていた高峰が、本では言いたい放題であるのが面白い。たとえば、女優・田中絹代との対談では、次のように女優としてのつらさをあっけらかんと一蹴している。 「(つらいことは)そのときだけですぐに忘れちゃいますね。盲腸切った痛さをすぐ忘れるでしょう。そんなものじゃないですか。お仕事としてやっているのがつらいのは当たりまえで、楽しようなんてだれも思っていないわけですよ」 池島信平、扇谷正造との対談では、華やかな女優業の舞台裏をあけすけに話している。引用しよう。 「だってみんなの前でお尻もまくらなければならないし、六十人ぐらいにとりまかれて接吻もしなければならないし、ナンでもしなければならないでしょう。自分が出てきたらナンにもできやしませんよ」 43歳の田中は、昭和の銀幕スターが活躍する時代と縁がなかったはず。それでも敢えて目標にしている。彼女が映画を演技の主戦場にしている理由に一歩近づけた気がした。 ◆変化が見られるようになった演技の場 昨年から田中の動向に変化の兆しが見えている。 切ない人間模様の描かれ方がZ世代に人気を得た『いちばんすきな花』(フジテレビ系・’23年)に出演しているのだ。それも主人公の4人全員にかかわるキーマン・美鳥ちゃん役。この時もSNS上は「田中麗奈?」と騒然としていた。それまであまり縁のなかった民放の地上波ドラマへの出演は高峰秀子が言う「ナンでもしなければならないでしょう」だったのかもしれない。 そして冒頭の朝ドラ出演へとつながっていく。 女優業といっても取り組み方は人それぞれ。結婚や出産を、役者ビジネスの一環として表現する人もいる。演じるだけではなく、文章を書くことやキャスター業も同時に進行する人だっている。その中にいながら、田中はあくまで「演技をする自分」だけを悠々と私たちに魅せ続けてくれる。それでいいのだ。 取材・文:小林久乃 小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45㎝の距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k
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