〈著名人かたる偽SNS投資広告〉「詐欺師は私たちのように地獄に落ちてほしい」米メタ社の日本法人を集団提訴した被害者たちの苦悩「娘の高校入学金をだまし取られ、家族を泣かせてしまった…」
実業家の前澤友作氏や堀江貴文氏などの名前をかたった偽SNS投資広告の被害に遭ったとして、4月25日午前、神戸市などに住む男女4人が、広告を掲載したFacebookを運営する米メタ社の日本法人「Facebook Japan合同会社」に約2300万円の損害賠償を求め、神戸地裁に提訴した。いったいどのような犯行の手口なのか。3人の被害者が集英社オンラインに被害の実態を詳細に語ってくれた。 「娘の高校の入学金がなくなってしまった」と訴えても、さらにお金を搾り取ろうとしてくる詐欺師とのLINEのやりとり
借金返済のため自宅を売却
昨年1年間の被害総額が約278億円に及ぶなど、いまや社会問題になっているSNS型投資詐欺(SNSを利用した非対面接触で金銭を騙し取る詐欺)。#1では、その背景と、今回訴訟を起こした被害者たちの代表となっているAさん(男性・42)が受けた被害について報じた。 提訴した被害者グループのひとり、61歳の佐々木陽子さん(仮名)は自らのケースをこう語る。 「昨年、ずっと勤めてきた公立学校の教師を定年退職しました。退職金で住宅ローンを一括返済すると、かなり目減りしてしまいまして……。『老後2000万円問題』と言われていますし、これでやっていけるだろうかと不安になっていました。 そんなとき、岸田首相が新しい資本主義について語っているのを聞き、投資の必要性を感じました。まだ、退職金が残っているうちに投資の勉強をしようと思ったんです」 そして見つけたのがFacebookに掲載されたKという投資家による投資セミナーの広告だった。2023年8月末のことだった。 「初心者向けの内容ということだったので、思わずクリックしてしまいました。すると、Kから『投資の勉強をしているLINEグループがあるから参加してみませんか』とLINEで連絡がきたのです。グループに入るとメンバーがすでに70人以上いて、投資情報を中心に、日常会話などを頻繁にやりとりしていました。また、毎日朝晩、株式指標など投資に関する情報も流れてくるようになりました」 佐々木さんはKについては知らなかったが、ネットで検索をかけるとプロフィールやYouTubeチャンネルもヒットしたので、すっかり安心してしまったという。 「株式の解説などを読んでも、本当に投資を勉強されてる方なんだなとの印象を持ちました。最初は情報を見るだけだったのですが、9月半ば、日本の株価が下落し始めたタイミングで(LINEグループのやりとりが)『分散投資を考えないといけない』という話にシフトしていきました。そして、『今、株式はよくないから、FXでやっていきましょう』という話になったのです」 そこからFXの取引指導が始まり、KからLINEで直接、佐々木さんに連絡がくるようになったという。 「『あなたは初心者なのでいろいろと教えてあげます』と、FXの口座開設や手続きについて教えてくれる、英金融持株会社の顧問をしているという人物を紹介されました。 私は、当然FX業者とお金のやり取りをするのだと思っていたのですが、『ここに振り込んでください』と送られてきたのは個人名の口座だったんです。ちょっと変だなとは思ったのですが、日本円をドルに変更しなければならないと説明されると『そういうこともあるのか』と信じてしまい、お金を振り込んでしまいました」 佐々木さんは、最初は少額の数万円から取引を始めた。そして、MT5(金融市場商品取引支援アプリ「MetaTrader5」)でKに指示されたように取引すると、必ず勝てたという。 「そうすると欲が出てきてしまいます。Kも『あなたは資金が少ないから、儲けも少ない。なので資金を増やせ。資金を増やすことが立派な投資家になるための条件だ』とものすごくあおってくるんです。 そして、LINEグループを見ると、『今日の取引で1000万円も儲かりました』といったスクショがたくさん流れてくる。今思えばみんなサクラだったのでしょうが、それを見て私もその気になってしまったんです」 試しに1000ドルを2度、出金してみると、紐づけした自分の銀行口座にしっかりとお金が振り込まれた。これがダメ押しとなり、佐々木さんはこの詐欺を完全に信じこみ、手持ちのお金をすべてつぎこんでしまった。 「すると今度は、(『もっと投資しろ』と)借金の方法まで指示してきたんです。そして、投資のために銀行のカードローンで500万円、家の担保ローンで1100万円、消費者金融から200万円とお金をつくり、手持ちのお金と含めて合計2000万円を振り込んでしまいました」 だが、投資は失敗し、残ったのは借金のみ。佐々木さんは自宅を売却して資金を得る代わりに、賃貸として引き続き元の家に住み続けるリースバックによって借金を返済することに。現在は仕事をしているため生活はできているが、将来への不安と子どもに家を残せなかった無念さを感じながら日々を暮らしている。 「訴訟したところで騙されたお金が返ってくるかどうかはわかりません。しかし、このような被害がこれ以上、広がってはいけない。社会正義のためにFacebook Japanと戦っていきたいと考えています」