春ドラマ女優ベスト3。“子宮を1000万で貸した貧困女性”も凄いけど、今クールの圧倒的No.1は
『燕は戻ってこない』石橋静河
次にご紹介したいのは、ドラマ『燕は戻ってこない』(NHK総合、火曜よる10時~)で、代理母になろうとする主人公・リキを演じる石橋静河。手取り14万円で貯金もない貧困故に、日本では認められていない代理母出産を選択したリキの葛藤や欲望を見事に表現しています。
視聴者の心をザワつかせる感情表現が秀逸
石橋自身は俳優の石橋凌と原田美枝子の次女として生まれ、幼い頃にはじめたクラシックバレエで海外留学。ダンサーから女優へと転向した表現者のサラブレッドです。 朝ドラ『半分、青い。』における佐藤健の妻役で存在感を示し、映画化もされたドラマ『前科者』では保護観察の対象者・仮釈放中の前科者・みどり、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、源義経(菅田将暉)の愛妾・静御前など、意思の強さを感じさせる役どころを多く演じてきました。しかし『燕は戻ってこない』においては、自分に自信がなく幼さすらも感じさせる、“負のオーラ”を纏った貧困女性を演じています。 代理母出産という特殊な題材をテーマにしている同作の登場人物たちは、皆なかなかに共感しづらい設定です。石橋演じる主人公のリキも、育ちや不運が重なったにしても、不安定な生活から抜け出すための“懸命さ”は感じられず、行き当たりばったり。感情と欲望に身を任せて父親が誰か定かではない妊娠をするなど、自分勝手な印象すらあります。 でも、清廉潔白な人間なんていない。無知だけど傲慢で、欲深い。共感はできずとも、リキの行動の背景に潜む人間の“業”をまざまざと石橋は見せつけてきます。自分がその立場だったら、リキのように誤った選択をしてしまうかもしれない――と心がザワザワするのは、石橋の豊かな感情表現に見入ってしまうから。視聴者がリキに苛立ちを覚えるのであれば、それは石橋の表現力のなせる技といえるでしょう。
『アンメット ある脳外科医の日記』杉咲花
記憶障害案件が多発した春クールのなかで、最も繊細にその心情を表現したのは、6月24日に最終回を迎えるドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系、月曜よる)主演の杉咲花ではないでしょうか。 杉咲演じる川内ミヤビは、不慮の事故により脳に損傷を負い、記憶障害の重い後遺症をもった脳外科医。過去2年間の記憶が抜け落ちており、今日起こったことはすべて明日には忘れてしまうのです。ミヤビは毎日の細かな出来事と気持ちを日記に綴ります。毎朝5時に起きて、戸惑いながら日記を読むところから始まるミヤビの日常。それを丁寧に表現する杉咲の演技は大いに注目を集めました。