鳥インフルエンザの人間への感染、次のパンデミックになるのか?
鳥インフルエンザがここ数十年の間に鳥の間にとどまらず、家畜にまで広がったことは、恐らくみなさんも耳にしたことがあるだろう。 インフルエンザA型ウイルスの一種である鳥インフルエンザが人間に感染した例は1997年以降、世界23カ国で1000件弱報告されている。高病原性鳥インフルエンザH5N1型は、鳥インフルエンザの中でも人間に感染しやすく、多くの場合、家禽(かきん)に触れることによって感染する。 同ウイルスは感染した動物との接触で、唾液やふん便、呼吸器飛沫(ひまつ)などの体液を通して感染する。人間が感染した動物の体液に触れ、その手で自分の目や鼻、口などに触れるとウイルスに感染する可能性がある。また、動物の生息地にウイルスが存在する場合、空気中の細かいちりやほこりを吸い込むことでも感染する。 だが、鶏肉や卵を食べても、適切に調理されていれば鳥インフルエンザに感染することはない。これまでに米国の食料品店で販売されている牛乳から鳥インフルエンザウイルスの残骸が検出されているが、現時点で入手可能な証拠はすべて低温殺菌牛乳は安全であることを示しているため、殺菌処理の施された市販の牛乳を飲んでも感染する恐れはない。実際、米食品医薬品局(FDA)は卵接種試験の暫定結果に基づき、低温殺菌牛乳は安全だと発表している。 米国で人間がH5N1型ウイルスに感染した事例は、これまでに2件報告されているに過ぎない。2022年に中部コロラド州の養鶏場で、先月には南部テキサス州の酪農場で、それぞれ職員が感染した。いずれの場合も症状は軽く、合併症を引き起こすことなく回復した。 鳥インフルエンザの主な症状は、発熱や喉の痛み、咳、鼻水、涙目、筋肉痛、疲労感などで、一般的な人間のインフルエンザと類似している。場合によっては、鳥インフルエンザは肺炎や呼吸不全など、重篤な症状を引き起こすこともある。
鳥インフルエンザは次のパンデミックになるのか?
世界保健機関(WHO)によると、重要なのは鳥インフルエンザによる人間の死亡率は56%、つまり感染者の半数以上が死に至っていることだ。だが、この数字は誇張されている可能性が高い。というのも各国の保健当局は、鳥インフルエンザに感染しても症状が現れず、検査を受けなかった人の数を正確に把握していないからだ。検査は通常、鼻や喉のぬぐい液で行うが、農家や動物に関わる仕事をしている人の多くは、自分がウイルスに感染していることに気付かなかったり、検査を受けたがらなかったりすることがある。 鳥インフルエンザが人から人へ感染する事例はまれにあるが、米国では確認されていない。米国の事例は、人間がウイルスに感染しているとみられる動物と直接接触したことで発生した。 では、鳥インフルエンザが動物の間でまん延していることを考えると、私たちは次のパンデミック(世界的大流行)を心配すべきなのだろうか? 絶対に起こらないとは言い切れないが、鳥インフルエンザはまだ人間への感染力は強くないようだ。パンデミックの発生にはさまざまな条件が必要だが、中でも人から人への持続的な感染拡大が重要な要素となる。鳥インフルエンザの場合、その心配はまずない。もちろん、これは鳥インフルエンザウイルスが変異することで変わる可能性もある。変異はウイルスが複製し、環境と相互作用しながら別の動物に感染していく過程で常に起こり得る。 今後特に注意深く観察すべきことは、鳥インフルエンザが豚の間で広がるかどうかだ。豚は人間のインフルエンザと鳥インフルエンザの両方に感染する性質を持つため、豚の体内で両ウイルスが混合される可能性があるからだ。理論的には、これにより、人間に感染しやすい変異株を作り出すことができる。 米クリーブランド・クリニックは、一般的な人間のインフルエンザの治療に使われる抗ウイルス薬のタミフルが、鳥インフルエンザが人間に感染した場合にも有効だとしている。米疾病対策センター(CDC)は、鳥インフルエンザが将来、人間の間で大流行する可能性は低いとしながらも、万が一の場合に備え、米政府がワクチンの開発を進めていると説明している。当面は、動物や人間への感染を注意深く見守っていく必要がある。
Omer Awan