もろみ無事「復興の酒」に 珠洲・宗玄酒造、一部が被害免れる
●蔵に土砂、設備使えず手作業 能登半島地震で生産停止に追い込まれた珠洲市宝立町宗玄の宗玄酒造が、被害を免れたもろみを使い、日本酒の製造を再開した。酒蔵には土砂が流れ込み、停電で設備も十分に使えないが、「復興を象徴する酒を作りたい」との思いから、手作業で準備を進める。2月1日から販売する予定で、八木隆夫社長(60)は「珠洲が元気を取り戻す後押しをしたい」と話した。(社会部・織田琢郎) 宗玄酒造は酒蔵を3棟保有していたが、このうち1棟は1階の貯蔵庫部分に崩れた裏山の土砂が流入した。廃線となったのと鉄道能登線の旧宗玄トンネルを利用した「隧道(ずいどう)蔵」も出入り口がふさがれ、タンクが倒れたり、瓶が割れたりし、生産途中の酒を含めて半数以上が廃棄になった。 しかし、酒蔵に置いてあった一部のもろみが無事だったことから、「珠洲と一緒に頑張る象徴的な酒にしたい」(八木社長)と日本酒作りの再開を決意。もろみを酒かすと清酒に分ける搾り込みの作業は通常、機械を使って1時間程度だが、停電で使用できず、蔵人8人で5日がかりで行った。 約30人いる従業員の中には家を失った人もいるが、約8割は連日のように出社し、販売再開へ向けて作業をこなす。実家が津波被害に遭ったという金田真一郎さん(38)は「うちの酒は魚と合わせたら一番。珠洲のためにできることがあったらやりたい」と語った。 日本酒は「袋吊り、純米山田錦無濾過生原酒『一緒にがんばれ!珠洲宗玄復興の酒』」と銘打って売り出す。720ミリリットルの2本セット2万5千円(税込み、送料込み)を500個限定で販売する予定で、売り上げは1セットにつき1万円を珠洲市に寄付する。八木社長は「みんなが協力してくれ、私は幸せ者だ。何とか復興につなげたい」と話した。