「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」レビュー
ボークスのインジェクションプラキット「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」がついに発売となった。本商品は永野護氏のマンガ「ファイブスター物語(F.S.S.)」に登場するロボット「GTM(ゴティックメード)」の1騎、ダッカス・ザ・ブラックナイトをモチーフとしており、VSMS(VOLKS SUPER MODELING SERIES)というボークスの新しいブランドの最初の商品となる。 【画像】艶やかに光を放つ装甲と、鈍色のフレーム。写真だけだとプラモデルとわからないような質感だ GTMは一見華奢なシルエットを持ちながら、ひじや膝に特殊な関節構造を持ち、手足の末端が大きいという異形のロボットである。本商品の見所はGTMという作品世界を象徴する存在をインジェクションプラキット(プラモデル)という手法でどう表現するか? というところにある。 今回は筆者が購入した「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」に部分塗装を施し組みたててみた。商品の魅力、そしてデザインや機構の面白さを中心にレビューしていきたい。 ■ ファティマ・エストと黒騎士が駆るGTM ダッカス・ザ・ブラックナイト 最初にGTMのダッカス・ザ・ブラックナイト(以下、ダッカス)というモチーフについて紹介したい。GTMは全高およそ25mの人型兵器。その戦闘能力は常人からかけ離れた筋力や反応速度を持つ"騎士"が乗り込むことで発揮でき、騎士の力をその巨体で再現できる。剣を音速を超える速度で振り、最大稼動を行えばテレポートをしたような高速での移動すら可能としている。 GTMの制御は複雑で、騎士が思った通りに騎体を動かすためには"ファティマ"と呼ばれる人工生命体の補助が必要となる。騎士とファティマが乗り込むGTMは、すべての面で他の兵器を凌駕し、作品の世界ではGTMによる戦争が国家の行く末を左右する兵器として活躍している。 ダッカスはファティマ・エストと共に開発され、エストはダッカスを制御するときのみその能力が跳ね上がる「シンクロナイズドフラッター・システム」を搭載している。このためエストがダッカスの乗り手にふさわしい騎士を選ぶのだ。エストにダッカスの乗り手として認められた騎士は"黒騎士"と呼ばれ、羨望を集める存在となる。 「ファイブスター物語」は非常に長い時代を扱った作品で、作中数人の黒騎士が登場するが、その中でも大きな存在感を示すのが三代目の黒騎士であるデコース・ワイズメルである。彼は国家間での大きな戦争が起きる"魔道大戦"において、エストをパートナーにダッカスを駆り、鬼神のごとき活躍をし、歴史に名を残していく。 ダッカスをはじめとしたGTMは"ロボット"という意味では非常に印象的な姿をしている。前腕や膝から下が大きく、腹部は背骨しかないように細い。そして膝と肘が大きい。足はハイヒールを履いているようだ。このGTMのデザインはメカデザイナーとしても活躍する永野氏ならではだ。 特に膝や肘関節は「ツインスイング関節」と呼ばれる設計になっており、このデザインは高速で手足を動かし、止めることができる機構として考案されたという。GTMは音速を超える動きで剣を振るい、戦う。このため関節には凄まじい負荷がかかる。この負荷に耐えられる関節はどのようなものか? という永野氏が考えて考案した機構なのだ。「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」ではこのツインスイングをどう表現しているかが大きな見所だ。 さらにダッカスは「黒に近い深い緑の半透明装甲」を持っている。ボークスはクリアパーツでこの装甲の質感を表現しようとチャレンジしている。「GTMダッカス」、「F.S.S.」という物語世界、ボークスというメーカーの挑戦と、知識があるほど味わい深く楽しいキットとなっているのだ。次章でパーツを見て、そして組みたてていこう。 ■ クリア樹脂とABS樹脂で構成されたパーツ群 GTMダッカスというモチーフに挑戦した「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」は"ランナーの扱い方"から特殊である。本商品はA~Hまでとポリキャップ用のランナー、C、E、Fはそれぞれ2つあり、全部で13のランナーで構成されている。 面白いのはA~Dのランナー。これらは装甲部分なのだが、「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」では黒に近い緑のクリア(PS)樹脂となっている。このクリアパーツは運送時などで傷がつかないように樹脂シートで覆われてパッケージされている。このキットに対するボークスの"気合い"が感じられる包装だ。 E~HのランナーはABS樹脂。強度に優れた性質を持ち、本商品ではフレーム部分に使われている。ツインスイングの表現にもこちらのパーツが使われており、動かして遊ぶことを考えた素材となっている。ABSは昨今のプラモデルで多く使われるPSと異なる、アクションフィギュアなど素材に使われる樹脂だが、耐久性を考えてのチョイスだろう。本商品の組みたてには接着剤を使用するのが前提となっているが、ABS用の接着剤の使用が求められている。 パーツの素材構成やクリアパーツのランナーの切り離し方など組みたて説明書では注意点が書かれているが、加えてボークスでは公式ページでも組みたて方の注意点を紹介している。「特別なプラモデルを作ってるんだ」という実感が得られる商品である。それではいよいよ組み立てていこう。 ■ ダッカスのユニークなデザインを組みたてながら味わう 今回筆者は「目」と「ガット・ブロウ(武器)の刃」のみ塗装を行った。キットにはデカールでダッカスの特徴的な「三つ巴」の紋章をデカールで再現、素組みでも劇中のイメージに近く組み立てられる。 最初は顔と頭部の組みたて。ダッカスは目の部分が赤く、歯をむき出しにしたまるで鬼瓦のような恐ろしげな顔を持っている。目の部分を塗装することで表情がよりわかりやすくなった。 頭の組みたてを進めていく。ダッカスは末端が巻き毛のようにくるりと丸まったパーツがアクセントで、肩や腰の装甲板にもその意匠があるが、頭部は特にそれが顕著だ。まるで毛髪のように側頭部を覆うだけでなく、頭頂部や顔の正面も巻き毛のように丸まったパーツがつく。 GTMはデザインとして頭部に外に突きだした装甲が多いが、これは胸にあるエンジンの膨大な熱を放熱する役割もあるという。側頭部のパーツは可動するようになっており、細かい表情付けも楽しめる。後頭部の髪の毛のように伸びるパーツも放熱を考えてのデザインだろう。頭頂部のパーツを付けると丸かったダッカスの目の上部分が隠れ、正面を睨んでいるような迫力のある顔つきとなる。ダッカスの迫力がさらに増したようで楽しい。 次は胴体の組みたて。胸部はフレーム部分を組みたててから半透明装甲で覆っていく。明るめに撮影すると装甲がうっすら透けて内部が見える演出も面白い。 そして本キットの注目ポイントである腹部である。ダッカスの腹部は人間の背骨のようなデザインで、中心の支柱は節状のパーツで構成されている。プラモデルではポリパーツとABSを連結させていくことで支柱を作り、腰と腹部分の可動の自由度を確保している。 開発者のこだわりを感じるのは、可動を重視した支柱に加え、ポーズ重視の直立用支柱も用意しているところ。外装パーツもそれぞれ用意されているので、可動用とディスプレイ用の2つの腹部パーツを作れる。遊ぶときと飾るときでこのパーツを交換すればOK、というわけだ。ポリパーツ3つ、ABSパーツ3つで支柱を構成した腹部パーツは曲げるだけでなくねじることも可能な上、渋み(姿勢を支える強度)もあり自由度の高いポージングを可能にする。 腰パーツも可動部位が集中する場所だ。脚の付け根には大型のポリパーツが使われ、さらに腰の走行用にも幾つものポリ部品を使う。腹部に比べ腰パーツの装甲は大型でダッカスのデザインでのアクセントの1つとなる。これまで組み立てた部品を結合させることで、胴体と頭部部分の完成となる。次ページでは手足を組みたてていこう。 (C)EDIT ,All rights reserved. 創作造形(C)造形村/ボークス
HOBBY Watch,勝田哲也