岡口元判事の言動は、日本に蔓延する「裁判官幻想」に対するアンチテーゼと評価できるのか?
「法の支配」より「人の支配」、「人質司法」の横行、「手続的正義」の軽視… なぜ日本人は「法」を尊重しないのか? 【写真】実は日本以外にはほとんどない裁判官の「ヒエラルキー的キャリアシステム」 発売間もないうちに重版が決まった話題の書『現代日本人の法意識』(講談社現代新書)では、元エリート判事にして法学の権威が、日本人の法意識にひそむ「闇」を暴きます。 本記事では、〈多くの一般人は知らない、日本の「司法とメディア」のすさまじい「癒着と腐敗」〉にひきつづき、岡口元判事の言動は、裁判官幻想に対するアンチテーゼと評価できるのか?という点についてみていきます。 ※本記事は瀬木比呂志『現代日本人の法意識』より抜粋・編集したものです。
事実経過
『現代日本人の法意識』第7章を閉じる前に、司法や裁判官をめぐる幻想に関するケーススタディーとして、インターネットを始めとする一連の表現活動によって型破りな裁判官といわれた岡口基一元判事のツイッター(現在の名称は「X」)等上の表現をめぐる問題につき、「岡口元判事の言動(その裁判官時代の言動)は、裁判官幻想に対するアンチテーゼと評価できるのか」という観点から考えてみよう。 岡口氏に対する各種処分をめぐる事実関係はやや複雑だが、できる限り簡潔に要約してみたい。処分対象となった言論と処分等の内容は次のとおり。 (1)二度目の判事任命書の画像とともに、「これからも、エロエロツイートとか頑張るね。自分の裸写真とか、白ブリーフ一丁写真とかも、どんどんアップしますね」などとツイート、また、行きつけの飲み屋で面白半分に上半身裸になり胸のまわりを縄で二周縛ってもらった画像を載せたツイート(なお、後記(3)の分限処分決定は、この画像中の人物が岡口氏であることがわからず、岡口氏以外の男性の画像と誤解した認定をしているようである)等二件のツイート(以上、2014~16年)。2016年6月21日、東京高裁長官の口頭厳重注意処分。 (2)特定の性犯罪事件の検索URLとともに、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」、「そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」とツイート(2017年)。事件関係者(遺族側)から不愉快との抗議。2018年3月15日、東京高裁長官の書面厳重注意処分。 (3)犬の返還請求訴訟の報道記事にアクセスすることができるようにするとともに、「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、『返して下さい』 え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら‥ 裁判の結果は‥」とツイート(2018年)。訴訟当事者(勝訴した原告)であった元の飼主から抗議。2018年10月17日、最高裁大法廷(全員一致)が分限裁判で戒告処分。 (4)前記(2)の遺族について、要旨「遺族の方々は俺を非難するように東京高裁事務局等に洗脳されている」との内容をフェイスブックに書き込み(2019年11月)。2020年8月26日、最高裁大法廷(全員一致)が分限裁判で再度の戒告処分。 (5)その後の2021年6月16日、国会の裁判官弾劾裁判所に訴追。対象行為は、2017年ないし19年のツイッター、フェイスブック、ブログへの投稿など13件。2024年4月3日罷免の裁判。