<3度目の挑戦者・京都国際センバツへ>/中 「ダブルエース」復活の日 /京都
2021年10月24日、大津市の皇子山球場。京都国際が秋季近畿地区高校野球大会の2回戦を迎える。五回裏の攻撃を終えて1―3と苦戦が続く中、六回表からマウンドを任せられたのは左腕の主戦・森下瑠大(りゅうだい)投手(2年)。4回を6奪三振と無失点に抑え、先頭打者だった九回裏には1点差に迫る本塁打を放つ。試合は2―3で敗れたが、背番号「1」の貫禄を見せ付けた。 京都国際が春夏通じて甲子園初出場を果たした昨春のセンバツ以降、森下投手は主要な試合のほとんどで先発。スライダーやカーブ、カットボールなど6種類以上の変化球と窮地にも屈しない精神力を武器に、夏の甲子園4強入りなどチームの快進撃を支えてきた。「あいつが投げたら絶対勝てると思える」(辻井心(じん)主将)と仲間たちの信頼も厚く、新チームでは副主将を務めている。 森下投手を「絶対的エース」と評する小牧憲継監督は、その強みを「相手打者に合わせたピッチングができる」と分析する。「強打者を迎えた場面など要所では全力投球し、抜く時は力を抜くという緩急を付けた投球ができる」ことは、完投を求められるエースの資質にも通じるからだ。 そんな森下投手に人一倍、ライバル心を抱く選手がいる。同学年の右腕、平野順大(じゅんた)投手だ。 平野投手は「調子が良い時は絶対に打たれない」(小牧監督)と評される直球を武器に、森下投手と共に「ダブルエース」と称され、背番号「1」を競い合ってきた。昨春のセンバツは平野投手が「1」を背負ったが、2回戦で右腕に死球を受けて負傷。「9」を付けて先発した森下投手を救援できずに敗れて以来、「1」を森下投手に譲ってきた。 死球を受けてから指先の不調に悩む中、昨夏の京都大会前には腰を負傷。「(昨春の)センバツからトントン拍子で成長してきた」(小牧監督)森下投手を横目に「自分が投げたいボールを投げられない」と悔しい思いを募らせてきた。2―3で敗れた昨秋の近畿地区大会2回戦でも、先発して3点を奪われていたのは平野投手。ついには、小牧監督から「お前が森下と勝負したら、コールド負けやぞ」「負ける試合は、いつもお前が投げる時やないか」と言われてしまう。 厳しい言葉の真意を、小牧監督は「(平野投手は)森下と同等の経験値がある。本当は一皮も二皮もむけていなきゃならないところを、どこか言い訳して逃げている節があったので期待も込めた」と語る。期待を込めた叱咤(しった)激励に、平野投手も「昨夏の甲子園から変わろうとしてきたが、変わったつもりになっているだけだった。本当に変わらないといけない」と実は気付いていた。 それ以降、練習に対する姿勢を一つ一つ見直すようにした。これまではこなすだけだったノックなどの練習メニューを、どういう意図があり、どういう能力を鍛えるのかを意識しながら取り組むようにした。「目の色が変わった。真剣に取り組んでいるのが伝わってくる」と小牧監督。森下投手も「真剣に練習に取り組む平野の姿に、焦りを感じることもある」とライバルの奮起を意識している。 「エースの座を取り戻すのが目標」と、もはや平野投手に迷いはない。「ダブルエース」の復活を、平野投手自身も、全国の頂点を目指すチームも、疑いようもなく信じている。【千金良航太郎】 〔京都版〕