田中希実「圧勝劇」の裏側で…次世代エース候補たちの明暗 ドルーリー朱瑛里(16歳)と澤田結弥(18歳)2人の“10代ランナー”が向かう先
2年連続決勝進出も…まさかの予選落ちに
そんな経験値もあっただけに、今大会でまさかの予選落ちに終わると、ミックスゾーンでは大粒の涙を流した。 「自信を持ってスタートはできたんですけど、ラストがキツくて粘り切れませんでした。抜かれていくうちに、自分の気持ち的にも弱くなってしまって。2週間前くらいに一度、貧血になったんですが、ここ最近は調子も上がって来ていたし、予選は通過できるかなと思っていたんですけど……」 集団の後方でレースを進めていたが、レース終盤に先頭まで上がってきた同組の田中が一気にペースを上げると、そのスピードに振り切られる格好になった。 「(予選通過ラインの)6着に入ればいいので、ラスト2週あたりから切り替えて、前の方に上がっていって勝負しようと思っていました。でも、1週目から『ちょっとキツイな』と思ってしまって、そこから自分の弱さがどんどんでてしまいました。国内最後の大きな試合だったので、先生や家族や支えてくれた人に恩返しになるようないい結果を出して、みんなを喜ばせたかったんですけど何もできなくて……本当に悔しいです」 澤田は今年9月から、MLBやNBA、NFLでもドラフト上位選手を毎年、多数輩出する米国スポーツ界の超名門大であるルイジアナ州立大へ進学予定だ。日米の大学のスタート時期の違いから、高校卒業から半年の「空白期間」がある。そのため、春は陸協登録でGPシリーズを転戦するなど異例の環境の中で今季、ここまで戦ってきた。 「春の大会では記録を出しておきたかったんですが、思ったほどタイムがでなくて。大きな故障などはなく、調子も徐々に上がってはいたんですけど」 それでもGPシリーズでは前半から仕掛けてみたり、集団後方でレースを進めてみたり、様々に試行錯誤をする様子も見て取れていた。それだけに、最大の目標に置いていた日本選手権での予想外の結果を、なかなか受け止めきれていないようだった。 澤田を指導する浜松市立高校の杉井将彦監督は、以前話を聞いた際、彼女の強みのひとつを「いい意味で陸上素人なこと」と分析していた。 高校から本格的に陸上競技をはじめた澤田は、経験が浅い分、良くも悪くも怖さなく攻めのレースを展開できることが多かった。飛躍のきっかけとなったU-20世界選手権での入賞も、とにかく先頭のランナーに食らいつき、粘り切ってゴールしたレースだった。 翻って、今大会の澤田は急成長の中で積み重ねた経験値がマイナスに発露したようにも見えた。 「今回は人の動きばっかり気にしてしまって…『田中さんはどこにいるのかな』とか余計なことを考えて、自分の走りに集中できていなかった気がします。もっと“自分のレース”ができるようにしたいです」 本人も自身の走りをそう振り返る。高いレベルで多くのレースを経験することで、展開をある程度想定できるようになった。マークすべき選手も明確だった。様々なことを考えられる余地が増えたからこそ、かえって悩んでしまう要素が増えたのかもしれない。 ただ、もちろんそれ自体は決して悪いことではない。 今回は良い方に転ばなかったものの、積み重ねた経験を噛み砕き、レースに活かすことができれば、きっとこれまで以上の結果にもつながることだろう。不甲斐ない結果に対して涙を流せる心の強さも、きっとプラスに働くはずだ。 澤田は8月に渡米し、異国の新天地でトレーニングに励むことになる。慣れない環境、語学面のハードルなど、大変なことも多いはず。それでも、世界トップの大学で学ぶ稀有な体験は、今後の陸上生活に間違いなく活きてくる。
「独走・田中希実」の背中をどこまで追えるのか
現在、日本の女子中距離界は田中希実がひとり大きく前を走っている状況でもある。そんな中、今後はドルーリーや澤田といった才能のある若手選手たちが、その背中をどこまで追えるかが中距離界全体のレベルアップにも繋がって来る。 2人はともに高校で公立の進学校を進路に選び、スポーツの面ではある意味、制限された環境下でも着実に力を伸ばしている。そんな独自の道を選び、確固たる決意を持った若手ランナーたちが今後どんな成長曲線を見せてくれるのか。 パリ五輪の選手選考が話題の日本選手権ではあったが、来年の東京世界陸上や2028年のロス五輪まで含めて、未来も楽しみにしたい大会だった。
(「オリンピックPRESS」山崎ダイ = 文)
【関連記事】
- 【写真】「あ、脚が長い…顔が小さい…!」中距離“次世代エース候補”ドルーリー朱瑛里(16歳)と澤田結弥(18歳)の美麗フォーム…日本選手権で圧勝の田中希実の「ビックリジャンプ」も見る
- 【あわせて読む】陸上歴わずか1年半で「世界大会入賞」の衝撃…異例のキャリアの“高校女子No.1ランナー”澤田結弥が米の名門・ルイジアナ州立大へ進学を決めたワケ
- 【日本選手権】173cmの長身でも「“モデル体型”じゃダメなんです」…「悔しい」日本選手権3連覇で走高跳・高橋渚(24歳)が見せた“成長と課題”
- 【話題】不倫報道で立教大監督を解任、上野裕一郎が初めて明かす真相「本当に申し訳ない…」「ただ、カラダの関係はない」「職を失ってハローワークに」
- 【必読】「注目されてつらい思いを…でも」ドルーリー朱瑛里をめぐる過熱報道に思うこと…異様な雰囲気だった全国女子駅伝、記者発表の舞台ウラ