【判決】”尊厳ある人生の終わり”憲法の趣旨にふれつつ「だからといって殺害が許されるものでもない」ALS嘱託殺人事件 2審も医師の男に懲役18年
難病のALS患者を殺害した罪などに問われている医師の控訴審は、11月25日午前、大阪高裁で判決公判が行われ、大阪高裁は医師の控訴を棄却しました。 高裁判決は、「個人が終わりのあり方を主体的に決定する権利は尊重されるべきものだが…」と個人の尊厳などを定める憲法の趣旨にふれつつ、「だからといって依頼を受けて、殺害することが許されるものでもない」と断じました。
◆1審の京都地裁 懲役18年の判決
医師の大久保愉一被告は5年前、元医師の山本直樹被告と共謀し、ALS患者の林優里さん(当時51歳)から依頼されて、薬物を投与し殺害したなどの罪に問われています。 今年3月、1審の京都地裁は「恐怖や苦痛に直面していても、憲法は『命を絶つために他者の援助を求める権利』などを保障しておらず、被害者のための犯行とは考え難い」などとして、山本被告の父親を殺害した罪なども含めて懲役18年の判決を言い渡し、大久保被告側が控訴していました。
◆控訴審で被告側「個人の尊厳などを定める憲法に違反」と主張
大阪高裁での控訴審では、弁護側が「被告を処罰することは被害者の選択・決定を否定し、個人の尊厳などを定める憲法(13条)に違反していて、1審の判決は誤っている」などとして無罪を主張していました。 一方、検察側は控訴を棄却するよう求めていました。
◆大阪高裁「個人が尊厳ある人生の終わりを迎えるため主体的に決定する権利」
25日午前、大阪高裁はまず、憲法が保障する権利について次のように指摘しました。 「憲法13条の趣旨に照らせば、個人が尊厳ある人生の終わりを迎えるため、終わりのあり方を主体的に決定する権利は尊重されるべきものだが、だからといって直ちに、自分の命を絶つために他者の援助を求める権利が認められるわけではないし、自分の命を絶つことを決意した人からの依頼を受けて、その人を殺害することが許されるものでもない」
◆高裁は「嘱託殺人罪が成立しないと評価すべきときもある」と述べた
さらに判決は「(医師の行為が)社会的相当性が認められる可能性」についても述べました。 「病状の進行を止める方法がなく、これに対する恐れに直面する患者等から依頼を受け、医師がその患者の命を絶った場合には、社会的相当性が認められ、嘱託殺人罪が成立しないと評価すべきときもあると解される。しかし、人の命は失われたら取り返しのつかないもので、命を絶つという決意が揺らぐことは十分にあり得る。したがって、医師の行為が社会的に相当であると認めるには、病状を十分に把握したうえで、十分な説明をし、患者の意思の真摯性、変更の可能性などを慎重に見極めることが最低限必要である。」 「それにもかかわらず大久保被告は、被害者を直接診察をしたことも、カルテ等を見たこともなく、十分な説明も行われていない。意思の真摯性を見極めるための作業も行われておらず、被告の行為に社会的正当性を認める余地はない」などとして、大久保被告の控訴を棄却する判決を言い渡しました。