【飛田新地の歩き方2・メイン通りの昼と夜】 裏名所で「西成モーニング」を食し、昼間の新地を楽しむ
4月25日に『FRIDAY GOLD』に掲載した「飛田新地の歩き方」の続編。前回の取材で飛田新地の新たな魅力にハマった風俗情報誌『俺の旅』シリーズ元編集長の生駒明氏が、再びかの地を歩く。今回は新地のメインストリートである「メイン通り」の朝から夜までを定点観測し、新地を訪れた際に立ち寄りたい〝裏名所〟も紹介する。 【夕刻には提灯と料亭の灯りが男を誘う】すごい…60軒ほどの料亭が立ち並ぶ飛田新地・メイン通り ◆「モーニングセット」なのにアルコールつき ぷはぁ~、ウマイ。冷えたハイボールが乾いた喉に染み渡る。朝からお酒を飲んでも許されるのが、旅の道中のいいところ。旅行先が〝男の楽園〟飛田新地であれば、なおさらである。《西成モーニング 生ビール or 酎ハイ or 焼酎 or ハイボール ゆで玉子・1品 350 朝9時~昼11時》。飛田新地のすぐ西側を南北に貫く飛田本通商店街の大衆居酒屋『西成酒場 成り屋』の店頭に掲げられた看板を見て、目を疑った。モーニングセットのメニューに、アルコールが入っているのだ。 この朝定食に興味を掻き立てられ、午前9時半過ぎに入店。地元のオジサンらしき5人の先客がカウンターに座り、テレビを見ながら〝朝飲み〟を楽しんでいる。カウンターの中には店のユニホームらしき黒いTシャツ姿の若い女性スタッフが、キビキビと働いている。まるでガールズバーだ。 カウンターの端の席に座ると〝西成モーニング〟をオーダーし、お酒はハイボールを注文する。5分ほどで目の前にハイボールとゆでたまご、小鉢に入ったもつ煮込みがそろう。ゆっくり少しずつ食す。ウマイ。午前中から飲むお酒は、西成のゆるやかな雰囲気と旅の開放感が最高のツマミとなり、やたら美味しく感じる。 居並ぶオジサンたちに気を遣い、ひっそりと息を潜めながら飲食を済まして会計をする。「390円です」と茶髪の若い女性スタッフ。「あれ、看板には350円とありましたよ」と尋ねると、「4月から税込になったんですよ」とのこと。それでも390円である。こんなに安値とは恐れ入る。しかも朝から営業している。 昨夜入った飛田本通商店街の最南端にある『飛田食堂』も安かった。注文したのは〝とん汁定食〟。500円である。この物価高の時代にワンコインの定食だから、とん汁とご飯とその他一品くらいのものだろう、と思っていたら、目の前に現れた定食を見てビックリ。ボリューム満点なのだ。大きなお椀にとん汁が入り、ご飯は山盛り。加えて、おでん2品と漬物や惣菜が付いている。ご飯はお代わり自由である。これに生ビール(小)400円を付けて、合計900円で食べて飲んだ。1000円以内で飲食を楽しむ〝せんべろ〟ができた。 店内のテレビに映る阪神vs広島戦のナイター中継を眺めながら食事をしていると、次々に客が入ってくる。こちらも流行っている。飛田新地の周辺の飲食店は客入りがいいようだ。料理を運ぶスタッフは若い女性ばかり。旧遊廓の街にふさわしい〝ガールズ定食屋〟といった感じである。カウンターの奥に、江戸時代の吉原の花魁が描かれた暖簾が掛かっていたのが、色街の近くで営業する飲食店らしくて印象的だった。 飛田新地の周辺には、前述の2軒の他にも良質な飲食店が多数ある。アーケード商店街には老舗の喫茶店が点在するうえ、洋食店や中華料理店などもある。どこも安値でボリュームがあり、コスパがとてもいい。遊びの前後に立ち寄り、大阪の下町グルメを楽しもう。 ◆飛田新地・メイン通り朝~昼 メイン通りは、飛田新地を代表する通りである。通りの左右に60軒ほどの料亭がビッシリと並んでいる。主に20代の女の子と、30代でも見た目が20代の女の子が働いており、1本北にある青春通りとともに、女の子のビジュアルの高さが全国的に知られている。〝高速より〟〝真ん中〟〝時計台より〟の3つに分けることができる。特に〝真ん中〟は2本の縦筋(北門筋、山下筋)を挟んで約30軒がしのぎを削り、人通りが最も多く、女の子のレベルが高い傾向がある。今回は、このメイン通りの定点観測を敢行。西側の高架下の休憩所と、東側の時計台のベンチから、時間の許す限り、通りの様子を観察してみた。 早朝7時55分、メイン通りに人の姿はほとんどない。高架下の休憩所では地元の高齢者たちが足を休めている。昨夜の賑わいが嘘のようだ。まさに〝夢の後〟〝宴の後〟〝祭の後〟である。新地の中は地元の人ばかり。朝の散歩コースになっているようだ。 朝9時半になると、高架下の近くの料亭が営業を開始。他の料亭も女の子が出勤してくる。頭に帽子、口元にはマスク、地味な上着とスボンなど、なるべく顔を隠して目立たない服装で来る女の子が多い。一方で、高価そうなベージュのコートに黒いシャネルのバックと、全身ブランド品ずくめで出勤する嬢もいる。ジーンズにピンクのYシャツといったカジュアルな服装で出勤する女の子もいた。おばちゃんたちも出勤していく。こちらはそろってごく庶民的な格好だ。 ナップサックを背負った細身の白髪シニア男性が通りを歩いている。その奥では、杖をついた小柄な坊主頭の高齢者が料亭を物色している。車輪の小さな赤いレンタル自転車に乗った高齢男性が高架下からメイン通りに入ると、座席から降りて自転車を引いて歩いていく。電動のシニアカーに乗って通りを突き進んでいく高齢者の姿を見たときは驚いた。シニア男性の性欲はスゴイ。最強のアンチエイジングは、飛田に来ることだろう。若くてかわいい女の子を見るだけで、男性ホルモンが分泌されて若返ること確実だ。昼間から高齢男性がメイン通りを颯爽と歩いているのを見て、〝やるなぁ~〟と感心した。 午前11時過ぎ、メイン通りは閑散としている。たまに客が来るが単独ばかり。開いている料亭が少ないので、足早に通りを進んでいく。昼間の飛田はマッタリした雰囲気が漂う。高架下の休憩所では、ベンチの上でオジサンが昼寝をしていた。 正午ごろ、通りに入ってみる。〝真ん中〟の料亭の上がり框(かまち)に座る長澤まさみ似の女の子と目が合う。文句なしで、めっちゃかわいい。こんなアイドルのような女の子と、昼間から〝大人のおつきあい〟ができるのだ。目が合うと吸い込まれて上がってしまいそうになる。飛田で遊び始めると、お金がいくらあっても足りない。 昼間から、外国人客の姿もある。長髪でぽっこり腹の出たヒッピー風の白人がいる。北門筋をアジア系カップルが歩いていく。恰幅のいい南米系らしき男が、ギラギラ油ぎった顔艶をして通りを闊歩する。「どうぞ~、プリーズ、カム、ヒアー」とおばちゃん。外国人を見ると、呼び込みの言葉が英語になる。外国人はサングラスをかけていることが多い。自転車で走り抜けるニット帽を被った黒人の青年もいた。 午後1時45分、メイン通りに救急車が入ってきた。サイレンを鳴らしながら「救急車通ります」と拡声器で話し、高架下の手前で通りを出ると左に曲がっていった。時計台の前では、駐車違反を取り締まる〝緑のおじさん〟2人がママチャリで走っていったり、水色のゴミ収集車が通り過ぎていく。飛田新地が〝この世の異界〟でありながら〝普通の街〟でもあることを、強く感じた。 後編・「湯に浸かって心身をリセット、夕刻の新地の妖しい煌めきに魅了される」では夕方からのメイン通りの観察と、周辺の銭湯や安宿を紹介する。 後編「【飛田新地の歩き方2・メイン通りの昼と夜】飛田で湯に浸かり、夕刻の新地の妖しい煌めきに魅了される」はこちら 第1弾「世界中の男を引き寄せる日本一華やかな〝歓楽街〟 徹底ガイド「飛田新地の歩き方」はこちら 取材・文:生駒明 ペンネームはイコマ師匠。風俗情報誌『俺の旅』シリーズの元編集長。徹底した現場取材をモットーとし、全国の歓楽街を完全踏破。フリーの編集記者として、雑誌やサイトの記事、自らのSNSなどで『俺の旅』を継続中。著書に『フーゾクの現代史』『ルポ日本異界地図』(共著)。
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