「ちょっと待てよ…こんなに簡単に勝てるはずがない」男子バレー日本代表<関田誠大、山本智大、西田有志が語る>パリ五輪・イタリア戦の真相
歴代最強と呼ばれた男子バレーボール日本代表。パリ五輪で初戦のドイツ戦に続き、準々決勝イタリア戦でもマッチポイントを逃して敗れ去った。絶対的なエースとともに戦った代表戦士たちは、何を感じていたのか。敗戦の裏にある真実に迫った。 発売中のNumber1106号に掲載の[パリ五輪ドキュメント]「『交錯』エースに託した1点 関田誠大/山本智大/西田有志」より、内容を一部抜粋してお届けします。 【貴重写真】「涙が止まらない高橋藍」「ブランの前で子供のように泣く西田」「静かに目を潤ませる宮浦」テレビでは映らなかった“最強男子バレーの集大成”を見る(100枚超)
「こんなに簡単に勝てるはずがない」
これ、行けるぞ。 冷静沈着な関田誠大も思わず感情が昂った。 イタリアから2セットを連取し、第3セットも22-21。日本が1点を抜け出した。前衛にいた関田はワンポイント投入の宮浦健人に代わってベンチへ。石川祐希の連続得点で24-21とマッチポイントを握ったところでコートに右膝をついた。勝利したら真っ先に駆け出すためだった。 だが次の瞬間、我に返った。 「ちょっと待てよ、と思って。そもそも相手はあのイタリアで、こんなに簡単に勝てるはずがない。このままブレイクが取れるわけがないから次のプレーが終わったら出る準備をしておこう、と思い返しました」
土壇場でイタリアに追いつかれ…
関田の予想は的中する。イタリアに1点を返され、続く得点も石川とリベロの山本智大の間に放たれたシモーネ・ジャンネッリのサーブで崩された。石川のスパイクがアウトになり24-23。日本はワンタッチの有無を確認するチャレンジを要求。その間、コートで石川と山本は直前のジャンネッリのサーブを振り返って、次はどう対応するかを短い時間で確認し合った。 「今のどうだった?」 山本の問いに石川が即答した。 「俺行けるわ」 続く2本目も2人の間、山本は取りに行こうと動いたが、同じ瞬間に石川の膝が半歩前に出たのが見えた。直前のやり取りも頭をよぎり、邪魔しないように身体を引いたが、石川の意識は次の攻撃に向いていたためボールは2人の間に落ちた。 24-24。 土壇場でイタリアに追いつかれた。 リベロとして、山本はその判断を悔やむ。 「たぶん祐希にも僕の身体が動くのが見えたんです。ミスしたら終わりの場面で2本続けてあのサーブが打てるのがまずすごいんですけど、取りに行かずにサービスエースをとられたことが一番悔しかったです」 25点目は西田有志のスパイクが、アレサンドロ・ミキエレットのブロックに阻まれた。「1点ずつ」と言い聞かせながらも気負っていた。西田はそう振り返る。 「ミキエレットは左肩からグッと、前に出してくる。無理にストレート側を狙っても止められるので(隣で跳ぶミドルブロッカーの)ルッソとの間に打ったつもりが、ミキエレットの右手に止められた。結果論ですけどね。決めなきゃ、と勝ち急ぎました」 結局、このセットは25-27で落とした。 マッチポイントを握りながら、あと1点が取り切れない。フルセットで敗れた予選ラウンド初戦のドイツ戦と同じだった。 ドイツ戦は初戦独特の緊張感はありながら、それを上回る高揚感があった。関田は「やってやろう、という気持ちは今までのどの試合よりもあった」という。だが、その出鼻をくじかれる。 第1セット、ドイツの39歳の主砲、ギョルギ・グロゼルのサーブで7連続失点。日本は2-9と大きなビハインドを背負い、「やってやろう」のマインドが一変した。 「絶対に勝たなきゃいけない、やらなきゃいけない、と。Aパスから攻撃するシチュエーションも少なかったので、もう少しリバウンドやプッシュを混ぜたりすればよかった。アタッカーも『決めなきゃいけない』と思ってしまって焦る。決まってほしいところが決まらずやり返される。難しいゲームでした」 象徴的だったのが石川だ。 主将でエース。打数も多く集まるだけでなく、ラリーが続いた状況や1点を争う勝負がかかった場面で確実に決める。これぞ石川、と唸らせる姿を何度も見せてきた。
エースの明らかな異変
たとえば昨秋のパリ五輪予選。3-0で勝利すれば出場が決定するスロベニア戦では、5点を先行された序盤に相手エースをブロック、中盤にはスパイクでの連続得点。求める勝利をつかみ取る原動力になっていたのは紛れもなく石川だった。 石川が決めればチームが乗る。関田もそう何度も口にし、実際に勝負所で上げてきた。「金メダル獲得」を目標に公言したパリ五輪でも、苦しい時こそ決めてくれるのが石川だ。誰もがそう信じていたが、ドイツ戦で山本は明らかな異変を感じていた。
(「NumberPREMIER Ex」田中夕子 = 文)
【関連記事】
- 【貴重写真】「涙が止まらない高橋藍」「ブランの前で子供のように泣く西田」「静かに目を潤ませる宮浦」テレビでは映らなかった“最強男子バレーの集大成”を見る(100枚超)
- 【あわせて読みたい】「こんなあっさり勝っちゃうのか…」男子バレー関田誠大は“運命の第3セット”で何を考えていたのか「東京五輪よりは絶対、上にいけると思っていた」
- 【こちらも】「これで終わりなんだっけ…」男子バレー“まさかの逆転負け”の真相…敏腕コーチが映像を見直して確信「“イタリア戦”は完璧なスタートだった」
- 【必読】「トモくん、どうすんの?」石川祐希が部屋を訪ねてきた…リベロ山本智大が語る”激闘イタリア戦”その後「次も、という気持ちが湧き上がってきた」
- 【秘話】「タバコ吸いたいなら吸え」“ヤンチャ坊主”西田有志を育てた肝っ玉母ちゃんとマジメな父「ユウジは悪さしてもバレーボールだけは一生懸命だった」