「ギガキャスト」「メガキャスト」のカン違い→アルミ鋳物だから「軽くなる」とは、だれも言っていない
「ギガキャスト」「メガキャスト」にはメリットとデメリットが混在する
もうひとつの理由は、大型の鋳造部品の肉厚を薄くすることが難しい点にある。【写真05】は「モデルY」ギガキャスト部品の右側半分でボディ内側から見た様子、【写真06】はそれを反対のホイールハウス側から見た様子だ。四角く穴が空いているのは素材の成分を調べるために切り欠いたためで、実際には塞がっている。【写真07】は左側ホイールハウスの内側に成形されたサイドメンバー部分。実際には左右が一体なった大型の鋳物である。 サイドメンバー部分は後部衝突時の衝突エネルギーを吸収し、同時にボディ剛性を確保するため「XXXX」状態に補強リブが成形されている。「X」部分のリブ厚みは3~4mmある。そのため強度は充分で剛性も高い。ボディ剛性は断面積に比例して高くなるため、むしろ剛性が高すぎる。 補強リブも含めてギガキャスト部品全体をもっと薄くしようとすると、鋳造機の型締め力を高くする必要がある。現在、テスラが使っている型締め力8500トンの鋳造機では、おそらく現在の厚みが限界に近いのではないかと思われる。 肉薄の部分に隅々まで溶けた「アルミ溶湯」を行き渡らせるためには、アルミ溶湯を「押す」圧力と、アルミ溶湯投入口の反対側から「引っ張る」という動作のちょうどいいバランスが求められる。また、高圧でアルミを押し込む場合は、その力に負けないように金型をしっかりと締めておかなければならない。大型鋳造機を使いこなすのは、そう簡単ではない。 しかし、ボディを構成する部品は一体化すると剛性が上がる。ボルト締めや溶接で留めてある部分の「つなぎ目」をなくせば剛性が上がる。その点、ギガキャスト部品はもともと剛性のポテンシャルが高い。ポテンシャルが高いうえに素材の厚みがあるから、なおさら剛性が高い。これは一体鋳造化の大きなメリットだ。 難しいのは寸法精度だ。筆者が実際に見た4例の「ギガキャスト」には、必ず「削って修正した跡」があった。大きな鋳物だから、鋳造する瞬間の微妙な条件の違いによって仕上がり寸法に差が出る。マシンから出てきたギガキャスト部品はその都度修正して使っているようだ。 いまやプレス機でも鋳造機でも、金型の可動部分が動いてマシン側の固定部分と合体するときの微妙なズレ、いわゆる金型と設備とのあいだの「変位量」は、設備設計段階でトポロジー最適化技術による評価が行なわれる。重たい金型が動いて合体するときの微妙な上下傾きや前後左右のズレ(動的クリアランス変化と言う)を抑制している。テスラが使っている8500トン型締め力の鋳造マシンもこの方法で調整されている。 しかし、実際に鋳造を繰り返すなかでは、その日の気温や湿度、素材である「溶けたアルミ」の温度、金型を冷却する水路内の温度分布などの微妙な変化で製品にバラつきが生まれる。ある範囲内の変化であれば、部分的に削るなどして廃棄せずに使う。おそらくテスラは、マシンから出てきたギガキャスト部品の7~8割を修正して使っているのではないかと思われる。 アルミ鋳造だから軽くなるわけではない。ただし部品点数は確実に減り、剛性は高くなる。寸法精度の追求はなかなか難しい。それと、大型の鋳造マシンはコストが高く、素材であるアルミも鋼板に比べるとコストが高い。「ギガキャスト」「メガキャスト」にはメリットとデメリットが混在するということだ。
牧野 茂雄