神村学園　優勝の瞬間

＜第106回全国高校野球選手権鹿児島大会：神村学園 8－0 樟南＞◇27日◇決勝◇平和リース球場 【トーナメント表】鹿児島大会 結果一覧 夏の甲子園をかけた決勝戦は、総合力の高い第1シード神村学園と、バッテリーを中心に5試合無失策の堅守で勝ち上がった第6シード樟南の顔合わせとなった。 樟南の先発は山下聖弥（1年）。今大会躍進の原動力となった犬窪晴人、五反田流星の2年生右腕でなく、今大会ほとんど当番経験のない1年生左腕だった。 スタメンに8人左打者が並ぶ神村学園に左腕をぶつけた形だが、投手の左右に苦手意識のない神村学園打線は2回に早くも本領を発揮する。 5番・岩下吏玖（3年）が中前打で出塁。すかさず二盗を決め、6番・上川床勇希（3年）の右前打で先制した。その後も、死球で一二塁とし、手堅くバントで送って二三塁とする。 樟南は山下聖をから右横手の犬窪にスイッチしたが、神村学園は1番・増田友紀（3年）の右前適時打で2点目を挙げた。 4回には9番のエース今村拓未（3年）が自らのバットで3点目を叩き出した。 押され気味の樟南はその裏、先頭の3番・坂口優志主将（3年）が左前打で出塁し、一死一三塁と絶好の得点機を作る。一走・政野宏太（2年）が一二塁間で挟まる間に三走・坂口優が本塁を目指したが、神村学園の見事な連係プレーで本塁タッチアウト。6番・東大地（1年）も空振り三振に倒れ、反撃の機会を逸した。 5回表、神村学園は左前打で出塁した2番・入耒田華月（2年）が二盗を決め、3番・今岡拓夢（2年）の左前適時打で4点目が入る。 圧巻は7回表、一死から連打と四球で満塁とし、7番・木下夢稀（3年）が走者一掃の左越え三塁打を放った。8番・藤田侑駿（3年）がスクイズを決め、ダメ押しの8点目を挙げる。 エース今村は尻上がりに調子を上げ、9回裏無死満塁のピンチも三者連続三振で切り抜け、140球、被安打6の完封勝利で、神村学園が2年ぶり7回目の夏の甲子園への切符を手にした。 神村学園といえば「強打」が伝統的なチームだが、今年は「つなぐ意識」をより強く持っている。好投手を擁し、堅守が持ち味の樟南相手の決勝戦も、12安打8得点と打線がつながり、夏連覇を勝ち取った。 今大会5試合で58安打を記録したが、うち50安打が単打。この日も12安打中11本が単打だった。低反発バットが導入され、大きな当たりを狙えば飛球のリスクが高まる。「低く、強い打球を打つ」（小田大介監督）意識を日頃の練習から徹底していた。 低さに加えて「野手がジャンプしても捕れないぐらいの鋭い打球」を意識している5番・岩下が2回にイメージ通りの中前打で出塁。二盗を決め、6番・上川床の右前適時打で先制した。けん制を多用して足封じるのは樟南のお家芸だが、それを逆手にとって癖を盗んで二盗を決めた。単打で二塁から最短距離を走って本塁を陥れる技術にも鍛錬の跡がうかがえた。 つなぐのは単打や盗塁だけじゃない。一死からでもバントで送って得点圏に走者を進めたシーンもあった。7回、満塁から7番・木下夢の走者一掃の三塁打でダメ押したかと思えば、スクイズでとどめの8点目を奪う。そつなく多彩な攻めで、巧みに樟南の堅守を突き破って得点を重ねた。「守っている野手も、大きいのを打たれるより、間を抜かれる方が嫌だと思う。それが続けば、身体も動かなくなり、打球がグラブに収まらず弾くこともありますから」と岩下。昨夏は劇的なサヨナラ3ランで甲子園に導いた岩下の言葉にチームの変化と成長を感じた。 「選手たちが技術、体力、知力を発揮し、暑さの中で勝ち切ってくれた」ことを小田監督は何より喜んだ。この1年間負けなし、第1シード、勝って当たり前のプレッシャーをはねのけて鹿児島の頂点に立った。ひとしきり勝利の喜びを満喫した後は「エラーが多すぎる！　帰って練習だ」と小田監督。彼らの意識は早くも甲子園での戦いに向いていた。