米大統領選に翻弄される日鉄のUSスチール買収、株主総会で賛成を得たが買収は無事成立するか
問題をややこしくしているのが、今年がアメリカ大統領選挙の年で、かつUSS本社が「スイングステート」(選挙のたびに勝利政党が替わる「揺れる州」)として知られるペンシルベニア州にあることだ。 激戦が予想される大統領選挙をにらめば、強い集票力を持つUSWが反対している以上、政治的に買収支持の表明は難しい。バイデン政権は反対ではないとされるが、4月10日の日米首脳共同記者会見でもバイデン大統領は「アメリカの労働者に対する約束を守る」と述べるにとどめた。さらに、冒頭のようにUSWに寄り添う姿勢を改めて強調した。
■日鉄のアメリカでの商売はわずか 買収成立には、反トラスト法(独占禁止法)や、アメリカの安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の認可が必要になる。ただ、日鉄のアメリカでの商売はわずかで、同盟国・日本の企業でもある。本来なら独禁法もCFIUSも障害にはなりにくい。 だが、ともに政府の組織が判断する以上、政治の影響は避けられない。アメリカの一部政治家が日鉄の中国事業を問題視し、日鉄の中国拠点が新疆ウイグル自治区に存在するといった報道も出た。日鉄は即座に「そのような事実はいっさいない」と声明を出す羽目になった。
「冷静に考えるとアメリカに損はない。USSと(USWが)結んでいる労働協約を100%守る。丁寧に説明していけば必ず合意できる」(日鉄の橋本英二会長) 日鉄はロビイストを雇って政治家に働きかけるとともに、USWに対しては現行の労働協約を140%上回る14億ドルの追加投資や、同協約期間内にレイオフや工場閉鎖を行わないといった約束を示すなど、理解を得ようと力を尽くしている。 日鉄とUSSは今年9月末までの買収完了を目指しているが、少なくとも11月の大統領選挙の前に認可が下りる可能性は低いとの見方が大勢だ。
■トランプ大統領なら困難に 今後のシナリオはいくつか考えられるが、前提となるのはUSWが矛を収めること。実は、USWの賛同は買収に必須ではない。とはいえ、買収後の経営安定や独禁法・CFIUSの審査への影響を勘案すると強行突破は現実的ではない。 USWの賛同をいかに引き出すか。2026年9月末までの現行労働協約の、その先についても労組への譲歩を示せば可能性はある。USWが支持に回ると、バイデン政権ならば買収への道が開ける。