地銀に迫る「新資本規制」が高収益モデルに打撃、ハイリスク資産の売却や株主還元の抑制に動く銀行も
標準的な信用リスクの計測手法であれば本来、バーゼル3は銀行にとって有利に働くケースが多い。中堅・中小企業向け融資や住宅ローンなど、主要な資産のリスク量は従来よりも縮小し、自己資本比率を押し上げるからだ。だが、リスクの高い資産を抱える一部の銀行は、逆に自己資本比率が低下してしまう。 「当行の自己資本比率は、今後9%弱まで大きく低下する」。きらぼしFGと同様、来年3月に迫るバーゼル3の対応に追われるのが富山第一銀行だ。3月末時点の自己資本比率は11.02%。新規制によって、自己資本比率は最終的に2ポイント以上も下落すると試算する。
同行の課題は、総資産の1割弱を占める株式だ。バーゼル3導入後は段階的に引き上げられ、最終的に2.5倍になる。 そこで同行は純投資株の売却を推進する。2025年3月期業績は純利益が120億円と前期比で2.2倍に急伸する見通しだが、これは株式の売却益が理由だ。 「大変重要な問題だ」。スルガ銀行の加藤広亮社長も危機感をにじませる。同行が抱える賃貸用不動産向けの多額の貸出金も、バーゼル3によってリスク量が増えるためだ。「1年前の2023年3月期時点の試算で、自己資本比率は1.65ポイント低下する」(加藤社長)という。
■適正なリスク量を再考する契機 石川県の北國フィナンシャルホールディングスは、バーゼル3適用による自己資本比率の低下を見据えて、株主還元を抑制する方針だ。同社は傘下のファンドを通じた株式投資を行っているが、バーゼル3によって株式のリスク量は段階的に2.5倍に上がり、一部の非上場株式は4倍にまで引き上がる。 リーマンショックの反省から生まれたバーゼル3。中小企業向け融資のリスク量を下げて貸し渋りを防ぐ一方、価格変動リスクの高い株式などは、逆にリスク量を膨らませて投資を抑制させるねらいがある。
バーゼル3が向かい風となる銀行は、中小規模の地銀が目立つ。抱えているリスク量が経営規模に対して適正か、新規制は再考を促している。
一井 純 :東洋経済 記者