認知症で糖尿病の母と暮らすにしおかすみこが医師に聞いた「薬」の話
母親のことをよくわかってる理由は…
帰り道。私は「みんな優しいね。先生、ママのことよくわかってる感じだったね。何でだろう?そんなに長く通ってるの?」と聞いた。 「あん?そりゃ、あそこで働いていたからさ。訪問看護もやったし」 「え?!かかりつけってだけじゃないの?あそこに勤めてたの?いつ頃?どれくらい?」 「いつかはわからないよ。あんたたち育てたり、引っ越したりの都合で病院いくつも変わってるから。何年か? 忘れた。でもあそこがママが働いた最後の場所よ」 えええ!? 認知症についてだけでなく、私は母を知らなかった。……愛情深く育ててもらったのにな。……この会話も、ひとつも目が合っていない。 すっかり3年前の振り返りが長くなった。そんなこんなで、このとき薬を飲まない選択をしたのだ。 私は冷めたコーヒーを飲みながら母を想った。認知症を治す夢のような薬、あったらいいのにね。
これ見て!
2024年1月某日。正月も明け、世間が通常運転になった頃。 母と姉の長引いた風邪もようやく治り、父も毎晩酔っ払っている。 そんなとある日の昼間。私は台所で洗い物をしていた。居間から母の声が飛んでくる。「ねえ、すみ!これ見て。これ何?レカ、メカ、デカ。テレビが言ってる。これ何?」 もう面倒くさいな、何だよと思いながら仕切りカーテンをくぐり、母の指す画面を見る。 情報番組だ。介護特集のようだ。え?こんなの見るの?どんな気持ちで? アナウンサーさんがパネルを使って説明している。指し棒で追っている文字が大写しになる。レカネマブ。アルツハイマー病の新規治療薬だ。最近、耳にする。 母が「パクソ。自分が一番まともだと思ってるけど、あれはボケてるよ。これ以上暴れられたら、こっちがしんどいから。これどうかね?」 え?父に?って言ってるの? 「298万だってよ」 「え!?そんな高いの?待って、ママすぐ忘れちゃう」と、慌ただしく電卓を取りだし、「はい、いいよ。もう一度言って」と。 ……もう一度?何を算出する気だい?