寿司事業で世界に羽ばたく令和ドリームの体現者。寿司大将──北野唯我「未来の職業」ファイル
あらゆる職業を更新せよ!──既成の概念をぶち破り、従来の職業意識を変えることが、未来の社会を創造する。「道を究めるプロフェッショナル」たちは自らの仕事観を、いつ、なぜ、どのように変えようとするのか。『転職の思考法』などのベストセラーで「働く人への応援ソング」を執筆し続けている作家、北野唯我がナビゲートする(隔月掲載予定)。 北野唯我(以下、北野):8席の店を開業してから、たった1年半で新宿の一等地に120席の店舗を構えるまでに。この成功を予想しましたか? 蛎田一博(以下、蛎田):誰も想像できませんよね。寿司の事業は9年前に起業した人材紹介会社でやっています。会社の信用があったので今の物件が契約できました。敷金だけで4000万円、初期費用で1億円以上かかっています。 北野:まったくの異業種から参入したのに、寿司屋の「大将」の風格が出来上がっていてすごい。 蛎田:これはコスプレだと思いますよ(笑)。でも、俳優と同じで、むしろ演じているほうが「本物らしさ」を出せるのかもしれません。 北野:原価率50%をうたうコストパフォーマンスの良さで知られますが、もうけはどれくらいですか。 蛎田:飲食事業全体で月商3000万円以上。賃料など全部払った純利益で10%は残せています。利益は仕入れにも依存します。マグロは1本100万円以上する時もあるので。 お客さんの半数近くがインバウンドです。今後、昼と夜の値段を同じにする、あるいはコース価格を数千円上げても、さほど客足は変わらないと思います。そうしたらボロもうけできますが、あえてやりません。お客さんでにぎわっている状態のほうが優先ですから。 ■すべての仕事に変わりはない 北野:なぜ異業種の社長が自ら寿司を握ることに? 蛎田:コロナ禍では仕事がなくなり、社長の自分はひたすら釣りをしていました。社員にランチで海鮮丼を振る舞っていたら、ピンチのはずの会社の雰囲気が良くなったんです。社外でも評判になって、有楽町駅の地下に海鮮丼屋を開くことにしました。 毎日大行列でネタを切りまくり、1000円で販売しましたが、10日ほどで「やりたいことと違う」と気づいて嫌になってしまった。自分で飽きないビジネスをやろうと思い、素人は無理だと思うものに挑戦する意味で寿司屋に業態変更したんです。 北野:「今日からは寿司を握ります」と。 蛎田:どうせ練習してもできないと思ったので、お客さんに「初めてです」と正直に言いました。営業の仕事が得意だったから、そういう話はうまくできるんですよ。僕は会社員時代に営業のロープレなど意味がないと思っていました。とにかく始めてしまって実践したほうが早い。自分の手先が器用なことには、寿司屋になってから気づきました。