究極の復讐劇『ペナルティループ』、若葉竜也と伊勢谷友介が語り合う「この映画が大ヒットしたら逆に怖い」理由とは
渡邊 玲子 若葉竜也が主演を務め、伊勢谷友介の3年ぶりの復帰作となる映画『ペナルティループ』。『人数の町』(20)の荒木伸二監督が、オリジナル脚本で描く異色のタイムループ・サスペンスだ。憎んだ相手に復讐を繰り返すプログラム=〈ペナルティループ〉の果てに何が見えるのか──。何度も復讐する男と、何度も復讐される男を演じた若葉と伊勢谷が本音で語り合った。
中村倫也主演のディストピア・ミステリー『人数の町』で、斬新な発想と長編デビュー作とは思えぬ完成度の高さで注目を集めた荒木伸二監督が次なる一手として選んだのは、洋の東西を問わず古典的なテーマとも言える「仇討ち」。 だが本作の舞台は、監督が独自に考案した〈ペナルティループ〉という復讐執行の新サービスが施行されている近未来が舞台だ。主人公が意図せず巻き込まれてしまう一般的なタイムループものでもなければ、現実社会における死刑制度の是非を問うような、価値観を振りかざす社会派映画でもない。 愛する人を殺された怒りと絶望から、〈ペナルティループ〉というプログラムを利用することを自ら選択した男が、心身共に徒労感を伴う「終わらない仇討ち」を繰り返した末、その胸の内に思いもよらなかった感情が湧き上がる。復讐心に囚われていた主人公が、自らの手で何度も“死刑”を執行するループの果てにたどり着いた境地とは……。
本音で語り合える同志
劇中では、新システムの“死刑執行人”と“死刑囚”という立場で「がっぷり四つ」に組んだ若葉竜也と伊勢谷友介。年齢は13歳ほど離れているが、大衆演劇の一座に生まれ、幼少期から舞台に立っていた若葉と、モデルを経て、俳優や監督として活動を開始した伊勢谷とは、芸歴の長さはそれほど変わらない。 「伊勢谷さんは、小学6年生のまま大人になったような人です」とはばからず断言する若葉に、うつむいてニヤリと微笑む伊勢谷。初共演ながらも、密度の濃い現場で距離を縮めたことがうかがえる。取材の場でも、本音とも冗談ともつかない軽妙なやりとりが交わされていった。 伊勢谷 僕にとって彼は初めて目にするタイプの俳優さんでした。とても強いシンパシーを感じたというか。俳優同士、「自分の芝居のゾーンは犯させない」というのが一般的だと思うんですよね。でも、若林くんの場合は……。 若葉 いやいや……。間違ってますよ、伊勢谷さん。僕の名前、若林じゃないから! 伊勢谷 あ、若葉くんか。 若葉 これ、いつものことなんです。この人、ちょっと記憶力に問題があるんです。 伊勢谷 ああ、かもね(笑)。で、何の話だっけ? あ、そうだ。若葉くんの場合は、「伊勢谷さん、僕、ここちょっとよくわからないんですけど、どうしたらいいですかね?」って、自分の役や芝居について、共演者である僕に平気で訊いてくるんですよ。 伊勢谷 僕は、若葉くんが撮影前から荒木監督と長い時間をかけて、岩森という男の人物像をじっくり練り上げてきた変遷を横で見ていたので、「えっ? ここにきて、いまさら俺に訊く?」って内心とまどいながらも、「こんな感じじゃないかな?」って返したら、「なるほど! ちょっとやってみます」って。変なプライドみたいなものが一切ないところがすごく新鮮で。役では10回も殺されるのに、彼のことが好きになったというか。同志のように思えた共演者は、若葉くんが初めてでした。 若葉 僕は、自分一人の脳だけじゃなくて、いろんな人の脳で考えた方が絶対に面白くなると思っているので、俳優だけではなく、現場のアシスタントに意見を求めたりすることもあるんです。でも伊勢谷さんがそれを自然に受け入れてくれたことは、嬉しかったですね。「人に聞かないで自分で考えろ」って言われたりすることもあるので 伊勢谷 え、誰に(笑)? 若葉 いや、それは言えない(笑)。もちろん自分なりにあれこれ考えた上で、もっといいアイデアがないかなって探し求めているんです。せっかくクリエイティブな仕事なのに、現場でそういうやりとりをしなかったら何の意味があるんだろうって。だからこそ、現場が終わったら、共演者にプライベートでお誘いすることはほとんどないんです。でもなぜか今回、伊勢谷さんに対しては珍しく自分から声を掛けました。「スケボー教えてください」って(笑)。 伊勢谷 僕は役者同士が芝居論を戦わせる、みたいなことに興味がないので、若葉くんとスケートボードやサーフィンという共通言語を持てたことは嬉しかったな。とはいえ、最初のうちはちょっと疑っていましたけどね。なんか下心があるのかもって。 若葉 いや、プライベートで駆け引きみたいなことは一切しないです。役の上で焚(た)きつけることはありますよ。テストからずっと同じ芝居を繰り返しているだけで、このままじゃ面白くならないなと感じたときに、わざと自分から芝居を変えてみたりすることはありますけど。 ―現場とプライベートで接し方は違うけど、どちらも嘘(うそ)がないってことですね。 伊勢谷 日本人の付き合いって、本音はひた隠しにして、嘘や建前でいい感じに取り繕うことが多いじゃないですか。それって、モノづくりの現場やビジネスに関しても言えることで。「本当はそれが作りたいわけじゃないんだけど、そっちの方が金になるから」って、それが正義になるのが資本主義なわけですよね。だけど、僕としてはそこに抵抗したいという気持ちがあるんです。この映画は「小さな嘘が徐々に積み重なって、さらに大きな嘘が生まれる」タイプのものとは正反対で、それこそ登場人物たちの一挙手一投足が、すべて「実」へとつながっていく。そんなところが僕は好きなんです。