魔法が解けた自社株買い、株価の押し上げ力低下-ROE影響を見極め
投資家の多くは資本が効率的に使われ、利益を生み出しているかどうかを表すROEの向上を企業に求めている。2014年に経済産業省がROE8%など具体的な目標を示しながら企業価値の向上を促す「伊藤レポート」を公表して以降、日本企業のROEは改善方向にあるが、膨大なキャッシュや持ち合い株式の保有など非効率な面もなお残り、世界と比べ後れを取っている。
TOPIXの今年のROEは推定で8.7%と、米S&P500種株価指数の18.4%を大きく下回る。
りそなアセットマネジメントの下出衛チーフストラテジストは「われわれは長期投資家なので、自社株買い発表よりはサステナブルにROEが10%を超えてくるか、自社株買いがROE向上につながるのかを見ている」と言う。不採算事業の削減など改善余地はまだ多く、「グローバル企業にとってROE15%程度ないと十分ではない」と指摘した。
日本企業の経営効率を改善させるため、物言う株主(アクティビスト)が果たす役割は次第に大きくなっている。
米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏の保有で脚光を浴びた大手商社株の一角である住友商事は、ポール・シンガー氏率いる米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが数百億円規模の投資を行っていることが4月に判明。5月2日に発表した新たな中期経営計画では今後3年間で株主還元に7000億円を投じ、ROEを12%以上にする方針を盛り込んだ。
住友商事、ROE12%以上と総還元性向40%以上を目標-新中計
CLSA証券ストラテジストのニコラス・スミス氏はリポートで、自社株買いと増配でため込まれた資産の吐き出しを狙うアクティビズムの高まりで、6月の株主総会は「遺恨試合」になりそうだと予想。日本企業の高水準のキャッシュは「事業に回すか株主に還元する必要がある」とみる。法人企業統計調査によると、日本企業の内部留保は約555兆円と過去最高水準にある。
株価が既に大きく上昇した銘柄にとっては、大規模な株主還元策の発表が一部の投資家から利益確定売りが強まるきっかけになる可能性がある。住友商の場合、新中計の発表当日に株価は4%以上上昇し、上場来高値の4433円を付けたものの、その後は約7%反落。最高値を付けるまでの4年間で3倍以上となっていた。