爆風スランプ、26年ぶりのツアー完走 “今この瞬間を青春に変えてしまう”圧倒的なパワーで魅了
デビュー40周年プロジェクトを発足させ、これまでに26年ぶりの新曲「IKIGAI」の発表や、バンド史上初となる本人セレクトのベスト・アルバムのリリースなど精力的な活動を展開してきた爆風スランプ。名古屋からスタートした、こちらも26年ぶりのツアーのファイナル公演が11月17日に東京・LINE CUBE SHIBUYAで行われました。 この度、本公演のライヴ・レポートが到着しました。 [ライヴ・レポート] 〈デビュー40周年日中友好LIVE“あなたのIKIGAIナンデスカ?”〉と題されたこのツアーのオープニングを務めたのは、中国のロック・バンド“布衣(ブイ)。ファンキー末吉(Dr)が彼らのデビューアルバムをプロデュースした縁から2018年に正式にメンバーとして加入し、毎年100本近くをまわるツアーを敢行している実力派として知られている。ヘヴィメタルをベースに中国の伝統的なサウンドを加味しながらメロディアスに展開していくロックは会場に集まったオーディエンスに新鮮な驚きを与えていった。 「次は、きっとみんなも知っている曲なんじゃないかな」とファンキー末吉が言って始まったのは、なんと「リゾ・ラバ」。ソリッドでスケールの大きいアレンジにメンバー個々の技量の高さも感じられる。そして2コーラス目には、サンプラザ中野くん(Vo)が、ソロの前にはパッパラー河合(Gt)が、ソロ中にバーベQ和佐田(Ba)がステージに登場して布衣とのコラボレーションが実現した。ちょうど、爆風スランプが1999年に活動休止した直後に拠点を中国に移したファンキー末吉と、それでも幾度かの復活ライブでバンドの灯を絶やさなかったメンバーとの絆が、中国のバンドである布衣を交えて、ここでひとつになったかのような感動があった。 パッパラー河合のエンターテナーぶりで転換中とは思わせない盛り上がりを見せた会場は、テンションを途切れさせることなく爆風スランプのライブへ突入していく。「えらいこっちゃ」では、バーベQ和佐田の怒涛のスラップベース、ファンキー末吉のドラムソロ、そしてパッパラー河合のギターソロと、挨拶がわりにスーパーな演奏力の高さを見せつけていく。この圧倒的な基礎体力ともいうべき演奏力があるからこそ、爆風スランプの楽曲は本当の意味でジャンルレスなのであり、時代を超越して“青春”を表現できるのだ。 会場に集まったオーディエンスの多くは、中高年の人たち。だけど、みんな青春の真っ只中にいるように目をキラキラ輝かせ、爆風スランプの演奏に没頭していた。思わず、ここは渋公(渋谷公会堂)なんだと錯覚してしまいそうなほど“あの日”の熱狂を思い出した人も多いだろう。けれど――当たり前だが、今はあの日ではない。今は今なのだという事実がこれほど最高だと思えた瞬間もないのではないだろうか。なぜなら、あの日と同じように、いやもっと熱狂的に、自由に、ライブを楽しんでいるからだ。 「あのときの中高生が今、中高年に!中高年の方が中学生よりも自由に動けます。使えるお金もあります。今回のライブは“IKIGAI”がテーマですけど、裏テーマは“中高年”です。中高年パワー!」(サンプラザ中野くん) 中盤では、パッパラー河合がボーカルを担当する楽曲「スーパーラップX」をサンプラザ中野くん以外の3人で披露。かなりアバンギャルドで変則的な演奏に、パフォーマンス後に加わったサンプラザ中野くんが、「よかった!感動した」と素直な感想を口にする場面があった。バンドはそのまま“出身地マイラブシリーズ”の誰のバージョンを歌うかで真剣勝負のジャンケンを繰り広げ、結果バーベQ和佐田が一撃で勝ち抜け、「京都マイ・ラブ」を披露した。 なんだろう、この楽しさ全開の雰囲気は。先ほどのサンプラザ中野くんの素直すぎる感想といい、実は今、バンドの状態が最高潮にいいのは間違いない。 「涙2」に続いて本編最後の曲は「Runner」。その前のMCでサンプラザ中野くんが語ったことは爆風スランプというバンドの本質を物語っているような気がした。 「昨日の朝、(江川)ほーじんの夢を見て起きました。爆風スランプのどっかの野外ライブのステージに、和佐田さんがいるにも関わらずベースを持って駆け上がってきて、すごい元気で、前よりもハンサムになって、ベースを弾き散らかして盛り上がっていました。最高のベーシストを2人も抱えて、本当に幸せなバンドだと思います。いつかダブルベースでお贈りできたらいいなと思います」 アンコールのセットリストがすごかった。「耳たぶ」~「目ん玉」のパッパラー河合による一人パフォーマンスにファンキー末吉とバーベQ和佐田がコントで加わるという始まりから、新曲「IKIGAI」へ突入という流れは、当たり前だが誰も予想はできなかった。さらに「旅人よ~The Longest Journey」、最後は「大きな玉ねぎの下で」でオーディエンス全員の背中を押して40周年ツアーの全日程を終えた。 「いつとは言いませんけど、大きな玉ねぎの下でやりたい。でもそこがゴールじゃないよ。そこからまた新しいスタートだから」(サンプラザ中野くん) 爆風スランプの旅はまだまだ続いていく。 Text: 谷岡正浩