注目の〝ジビエ〟 おいしい魅力も…「安全・安心」大丈夫? 現場の衛生管理を取材
高タンパク、低脂質で栄養価の高いジビエ(野生鳥獣の肉)。おいしくて注目を集めるが、家畜と違って野生のため、感染症の病原体や寄生虫が付着している可能性もある。安全・安心にジビエを食べるには、どうすればいいか──。狩猟、解体、消費それぞれの現場の衛生管理を取材した。 狩猟から消費までの流れ
狩猟▶消毒し放血
11月上旬、午前5時30分。気温3度、目が覚めるほどの冷たい風が吹く長野県富士見町の八ケ岳山麓。フィーヨ、フィーヨと鹿の鳴き声が響き渡る。記者は同町の狩猟者、濱口敏昭さん(58)の鹿の捕獲に同行した。 軽トラックに揺られ、濱口さんが仕掛けたくくりわな20カ所の確認に回った。「傷つく前にわなから外してやらないと。獲物が暴れて死んでいたら肉は傷んで、ジビエ用には回せない」と濱口さん。直径十数センチのわなでの捕獲。広い山の中での鹿との知恵比べは毎朝繰り広げられる。 6カ所目のわなに鹿がかかっていた。前足を動かせず、おびえた様子の鹿。濱口さんは、すぐに状態を確認した。脱毛が激しかったり、痩せ過ぎたりしていると病気の可能性があるためだ。「45キロくらい。状態は良さそうだ」。食用可能な個体だと判断し、木の棒で鹿の頭をたたいて失神させ、ナイフを消毒してから首に刺して放血した。 濱口さんは「安全・安心なジビエの提供には鮮度維持が大原則。素早く放血して、1時間以内に食肉加工施設に運ぶことを心がけている」と強調する。
解体▶認証制度も
濱口さんが仕留めた鹿肉は、同町にある食肉処理施設「信州富士見高原ファーム」に運ばれた。年間500~600頭の鹿を解体する同ファームの荻原宏一さん(34)は「解体では、肉の状態を何度も確かめながら作業する」と話す。 濱口さんら契約猟師から運び込まれた鹿は、解体前に改めて傷や健康状態を確認する。解体時は皮を剥いだ後の皮膚や摘出した内臓の状態を調べる。 荻原さんによると、皮膚に寄生虫がたくさん付着があったり、内臓に疾患があったりする個体がまれにいる。「異常があれば廃棄することが重要だ」と強調する。 ジビエを取り扱う食肉加工施設は小規模のため、全国で牛や豚を扱う施設数の約5倍となる750施設ある。ただ、国が安全な食肉処理施設と認める「国産ジビエ認証制度」の取得は34施設(2023年8月時点)にとどまる。同ファームは19年に認証を取得した。 認証基準は、①厚生労働省のガイドラインに基づく衛生管理②捕獲個体情報をまとめた表示ラベルの順守③トレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)の確保──などだ。 日本ジビエ振興協会は「狩猟者や食肉処理施設が指針と異なる自己流で解体したものも流通している」と指摘。研修会を開くなど認証取得を後押しする。