京都府の町職員が目指す「ある舞台」 誰かのために走るやりがい「縁の下の力持ち」として
「きずな」と呼ばれるロープを手にした2人が、息を合わせてゴールを目指す。慎重に、軽やかに。ロープを引き合わないよう、腕の振りと歩幅を合わせ、足音までそろったその動きは「二人三脚」のよう。 【写真】「きずな」と呼ばれるロープ 京都府京丹波町の職員で「公務員ランナー」として活躍する北村友也さん(25)=同町和田=は、今夏の「ある舞台」を見据えている。 選手ではなく、他の選手がパフォーマンスを最大限発揮するための「縁の下の力持ち」として。障害のあるトップアスリートが世界中から集う「パラリンピック」だ。 北村さんは、日本代表として世界クロスカントリー選手権に出場するなど市民ランナーの傍ら、東京パラリンピック(2021年)の陸上男子(視覚障害)で二つのメダルを取った和田伸也さん(46)の伴走者を務める。 3年ほど前、和田さんの専属伴走者で、綾部高時代の先輩長谷部匠さん(27)から誘われた。 伴走者に特定の資格はいらない。練習や大会を共にできるスケジュールの柔軟さ、走りながら声を出せるほどのスタミナが問われる。もちろんパラアスリートが速く走れば、伴走者にはそれ以上の走力が必要になる。「自分の走力を生かせるなら」。迷わず引き受けた。 だが実際にやってみると「自分一人で走るのとは全く違った」。 レース中、伴走者は選手の「目」となる。コースアウトせず、ペースがわかるように、今いる位置、タイム、直線かカーブかコースの様子を声に出して伝える。「頑張れ」など、鼓舞するような声掛けはしない。選手の力を信じて、最後は自分よりも先にゴールラインへ導く。 初めて伴走した大会は「とにかく緊張した」。それ以上に「誰かのために走るやりがいを感じた」と振り返る。 「自分の記録を追求するだけでなく、伴走者としてのスキルを高めたい」。自身の大会や練習の合間を縫い、和田さんとの練習に参加する。平日の昼休みや仕事終わりには、トータル15キロ以上走り込むなど、町内で自主トレーニングに励む。 日常生活にも変化があった。「障害がある人に、自然と声をかけられるようになった」。スーパーで見かけた視覚障害のある人の買い物に付き添い、商品選びを手伝ったことも。「もし伴走者をしていなかったら、きっと見て見ぬふりをしていたかも」 東京大会以降、注目が高まるパラ競技だが、伴走者の存在は世間に浸透していない。 「走りたい、スポーツがしたいと望む障害者の方がいる。伴走者は、その希望をかなえる存在でありたい」 パラアスリートのパートナーとして障害者への理解が進むことを切に願う。和田さんが出場する今夏のパリ大会に向けて、練習も、その他の大会も、伴走を続ける。