キャンディーズが意識したのは“可愛いアイドル”ではなく「コーラスやユニゾンを活かせるグループ」、人気曲の収録秘話を伊藤蘭に聞く
「年下の男の子」は真夜中に録り直しが発生、当時はB面曲になる可能性も
続くSpotify第2位は、通算5作目のシングルとなる「年下の男の子」(’75年)。本作から、陽気なイメージを前面に出した軽快な楽曲も増え、この曲はキャンディーズ初のオリコンTOP10にランクインするヒットとなった(最高位9位)。ランがメイン・ヴォーカルとなり、彼女の歌声が歌詞に合わせて、時に挑発的に、時に切なく歌い分けられているのもポイントだろう。 「そんな風に聴いていただけるのは、“お姉さん目線”のような歌詞自体が素晴らしいおかげだと思います。当時、レコーディングが終わって帰宅中にスタッフから電話がかかってきて、“やり直してほしい”と言われ、真夜中にスタジオに戻って、1人で録り直しましたね。 実際、『年下の男の子』は難しいんですよ! 半音下げの部分が続くなど、当時の歌謡曲とはちょっと違うな、という感覚がありました」 この「年下の男の子」での大胆なイメージチェンジが功を奏し、さらなる人気を博したが、実はB面の「私だけの悲しみ」も美しいハーモニーを聴かせるマイナー調の楽曲で、3人の成長を感じさせる(Spotifyでは第37位)。 「当初は、『私だけの悲しみ』をA面にするという考えも一瞬あったようですね。それ以前からロマンチックでセンチメンタルな作風が続いたので、その流れをくむと『私だけの悲しみ』が順当ですから。私もこの歌が好きで、当時はステージでもよく歌っていました。歌謡曲っぽくて綺麗な作品ですよね」
ラストシングル「微笑がえし」で見せた3人のチームワークにスタッフも涙
そして第3位は、レコードでは最大のヒット(累計82万枚以上)となった、「微笑がえし」。解散前のラストシングルということもあり、キャンディーズ歴代シングル曲の要素を散りばめた“企画もの”と思われがちだが、同棲していた恋人と別れるというストーリーや、3人の絶妙なハーモニーなど、クオリティの高い作品としても成立している。 「『微笑がえし』は、今までの楽曲のフレーズやサウンドをふんだんに取り入れた豊かな楽曲ですね。明るく笑って、でも、ちょっと切なくて。この曲をレコーディングした時は、スタジオに入ってから譜面を初めて見るくらい忙しくて、練習時間もほとんどなかったのですが、3人のチームワークで歌えちゃったんですよ。本当に息もピッタリで。だから、レコーディングが終わった瞬間、周りのスタッフはとても感傷的になったと後から聞かされました」 ランキング表を見てみると、「春一番」「年下の男の子」「微笑がえし」のTOP3は、いずれも穂口雄右が作曲と編曲を手がけている。 「そうなんですよ! 穂口先生の作品は、アレンジも凝っていますし、今聴いてもおしゃれですよね。中でも『微笑がえし』は、作詞していただいた阿木燿子さんのほうから、“最後だから穂口さんがいいんじゃない?”と推してくださったそうです。先生にはデビュー前から、特にハーモニーに関して熱心にレッスンをしていただいて、とっても感謝しています。キャンディーズは、私たち3人も、作ってくださる周りのスタッフも、コーラスやユニゾンをちゃんと活かせるグループを目指していたんです。 特に、シングル7作目の『その気にさせないで』(Spotify第14位)は、海外のスリー・ディグリーズとか、日本でもアップルズ(後に、コーラスグループ”EVE“と改名)とか、すごい実力派が出てきたことを受けて、私たちもハーモニーを勉強しながら歌っていました」 確かに、このソウルフルな楽曲「その気にさせないで」から、パンチの利いた作品が増えたような気がする。考えてみると、近年のアイドルグループは大人数でのユニゾンを持ち味としているのに対し、キャンディーズは、たった3人でも、パワフルなユニゾンからラグジュアリーなハーモニーまで聴かせる。そこには裏打ちされた目標や努力があり、それゆえ、半世紀ほどたった今でも魅力的な作品が多いのだろう。 インタビュー第2弾では、TOP3以外の楽曲や隠れた名曲、さらに、伊藤蘭のソロ作品の中での人気曲について尋ねてみたい(9月21日配信予定)。