目を見開き、口には2本の針金が… みうらじゅんが「ラッパーの源流だ」と確信する京都の“偏愛仏像”とは
月輪寺の空也上人にラッパーの源流を見た!
空也上人といえば、JRのキャンペーンでもプッシュされていた六波羅蜜寺の像が有名ですが、僕がおすすめしたいのは月輪寺の空也上人像です。 【画像】みうらさん所有の空也上人フィギュア 月輪寺には20年ほど前『TV見仏記』という番組のロケで行きました。このお寺は、愛宕山の厳しい山道を歩いて行くしか辿り着く方法がないんです。当時の僕はまだ40代半ばでしたが、結構きつくてね。1時間近く歩いてやっとお寺に到着しました。このとき境内で飲んだ湧水がすごくおいしかったことをよく覚えています。 月輪寺には「烏天狗が羽を休めた」といわれている大木が生えていて、そのころおられた尼さんが「この木のあたりから、よくUFOが見えるのよ」とおっしゃったんです。本当に天狗やUFOが来てもおかしくない神秘的な雰囲気のお寺なんですよ。
六波羅蜜寺の空也上人よりもワイルド
宝物殿に入り、月輪寺の空也上人像を見た瞬間、すごく驚きました。六波羅蜜寺の空也上人像は、口から出た1本の針金の上に「南無阿弥陀仏」を表す6体の小さな仏が並んでいますが、こちらの空也上人の口からは2本、「南無阿」と「弥陀仏」に分かれて飛び出していたんです。しかも月輪寺の空也上人は目をカッと見開いていて、薄目を開けた六波羅蜜寺の空也上人よりもワイルド。空也上人は月輪寺の近くにある滝で修行をされたそうですし、荒行に耐えた厳しい顔を、よりリアルに表現されたんでしょうね。 仏像が大好きになった小学4年生のときから六波羅蜜寺の空也上人像を何度も見ていますが、見るたびに「思っていたより小さいな」と思うんです。だって120センチくらいしかないですから。月輪寺の空也上人像も、やっぱり小さかった。小柄に作るルールがあったんでしょうかね? 平安時代に京都で疫病が流行ったときに、空也上人は質素な衣を着て、頭に鹿の角がついた杖を握って、町中で鉦を鳴らして踊りながら念仏を唱えていたわけです。そのスタイルは、現代のストリートシンガーやラッパーのハシリともいえますよね。 【清滝】月輪寺(つきのわでら) 山深くアクセスが困難な場所ながら、空也上人立像、阿弥陀如来坐像を含め重要文化財に指定される仏像が8体も。湧水「龍奇水」や4~5月にかけて葉から雫を落とす「時雨桜」も人気。 所在地 京都市右京区嵯峨清滝月ノ輪町7 電話番号 075-871-1376 拝観時間 10:00~14:00 ※雨天時参拝不可 ※冬季参拝休止 みうらじゅん イラストレーターなど。1958年京都市生まれ。『マイ京都慕情』(新潮社)、『見仏記』シリーズ(角川文庫/いとうせいこうと共著)など著書多数。
臼井良子