変わる長野県最大の歓楽街で変わらぬ歌声「また会いましょう」 高校時代から路上ライブ続けて20年
みぞれが強まり、かじかむ寒さのアーケードの通りに温かみのある歌声が広がった。「ごんごん権堂で出会いましょう。雨も曇りも晴れの日も」。今月中旬の週末の夜、人もまばらな長野市権堂町。同市のシンガー・ソングライター蓮香(はすのか)亜衣さん(41)による路上ライブだ。繊細なアコースティックギターの音色とともに、疲れた心を癒やしてくれるような声色。10人ほどのファンが囲み、温かい拍手を送った。 【写真】夢まとい、目指すはナンバーワン 長野市権堂のネオン街で働く22歳キャバクラ嬢「やるからには1番になりたい。めちゃくちゃ負けず嫌いなんで」 【フォトジェニック~わたしのリアル~】
友人たちと聞き入っていた同市の会社員大井崇さん(47)は、2軒目に向かう合間に立ち寄った。「昔のヒット曲を演奏してくれるし、権堂を盛り上げようという気持ちに共感した」
県内最大の歓楽街として多くの酔客を迎えてきた権堂。蓮香さんは須坂高校時代、シンガー・ソングライターの椎名林檎さんらに憧れ、2000年に権堂で路上ライブを始めた。以来ずっと週末を中心に歌い続けてきた。
当時は長野冬季五輪開催から2年が過ぎていたが、まだ活気があり、看板のネオンがいくつも輝いていた。バーやスナックで歌って稼ぐようになると、コンテストで優勝。10年にはCDデビューも果たした。
それから10年、予期していなかった事態が起きた。コロナ禍だ。権堂でも集団感染があり、営業時間の短縮要請や行動制限で閑散とした。閉めた店も少なくない。
育ててもらった権堂に恩返しできないか―。そう思い、今年3月に「権堂で会いましょう」を作詩、作曲。「権堂で呑(の)みましょう」とともに9月に自費でCD化した。権堂の飲食店など10店で1枚千円で販売し、売り上げは全て店に渡している。
コロナは5月、インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したが、権堂に人出は戻っていない。中心部では大規模マンションの開発が進み、「夜の繁華街」のイメージはむしろ薄まりつつある。
この日は、今年の定期路上ライブの最後の日。「また会いましょう」。ファンらに声をかけ、ギターをケースにそっとしまった。