選手が冷静なのに…「ベンチが熱くなり火を注ぐ」 審判を悩ます“ピッチ外のマナー”【インタビュー】
サッカーの魅力の1つは判定に対する議論「白黒つけたら面白くない」
――どんどんプレーが続いていく試合のほうが見るほうも集中できます。 「当然、危険なプレーや相手を傷つけるプレーを流すということではないのですが、本当に細かいところを見極めていくことだと思います。フェアなプレーが続いてサポーターの人たちが見入っていくようなことにしなければならないと思っています。 選手たちもすごく理解してくれて、昔は誰かが倒れたらすぐにみんなでアピールするような場面がありました。ですが今は、ひどい怪我の場面を除いて、選手たち全員がすぐ次のプレーに移ってくれていると思います。今は選手と審判が一緒になって素晴らしいゲームを作ろうとしているのが伝わっているのではないでしょうか」 ――それでは今年の判定で改善の余地があると思ったところはどこでしょうか。 「それは判定の正確性をもっと上げていくことに尽きます。これは私の経験論なのですが、ポジショニングや見る角度は重要だとしても、その意識が強くなりすぎると、今度は逆に事象が見えなくなってしまうのです。それを改善するにはさらに経験を積むしかありません。その経験を積む作業を続けていきたいと思っています。 それから今、コントロールを少し考えなければいけないと思っているのはベンチマナーのところですね。選手は冷静にプレーを続けていてもベンチが熱くなって火を注ぐ場面が何度かあったと思います。 すぐにカードを出して抑えつけるということではないにしろ、観客のみなさんが見たいのはピッチの上であってその外ではないはずです。ですからベンチのマネジメントについてはどうコントロールしていくのか、少し課題があると思っています」 ――今年は審判に明確な基準を定めるように求める声がありました。例えばPKの前にボールに対して水をかける行為に対して、必ず主審がアクションをしたほうがいいのではないかという意見がありました。 「10月にサッカーのルールを決めるIFAB(国際サッカー競技会)のテクニカルディレクターであるデヴィッド・エラレイ氏が来日して語っていました。彼は競技規則を作る側の人間として、サッカーの魅力の大きなところは判定に対して議論することだと言うのです。 試合が終わってパブや居酒屋に行ったり、今だったらSNSでいろいろ議論したりするのもこのスポーツの魅力。そこにあまり白黒を付けるようにルールが細かくなると面白くない、と。それをみんなにどう理解してもらうかということを考えていかなければならないと思っています。ただ、観客のみなさんの審判に対する理解は非常にいただけるようになってきたと思っています」 [著者プロフィール] 森雅史(もり・まさふみ)/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。
森雅史 / Masafumi Mori