Apple Vision Pro米国版を購入・プレビューして体感した「今、手に入る未来」(西田宗千佳)
「ねんがんの Apple Vision Proをてにいれたぞ!」 「そう かんけいないね」なんて言わないでほしい。 確かに最低でも3500ドル(約52万円)というのは高価だし、現状は英語環境のみでの動作だ。後述するが、いわゆる「技適」もない。不便な点も留意すべき点も多々ある。 しかし、使ってみると確実に「これは未来の1つの形だ」と感じる。過去さまざまな機器で試みられてきた方向性を、アップルが大きな予算とコストをかけ、一気に新しい次元まで持ち込んだ。 それはどういうことなのか。実機写真とともにファーストインプレッションをお届けしたい。
ハワイでVision Proをゲット
今回、Vision Proはハワイ州ホノルルにあるApple Store Ala Moanaで購入した。元々は米国在住の友人への配送から日本への転送、次に同じくハワイのApple Store Kahalaでの受け取りになり、最終的には予約をキャンセルして発売日当日にAla Moanaでの受け取りになった。要は「いろいろあったが、店頭在庫があったので発売日当日に受け取れた」ということである。売れていないわけではなさそうだが、アップルは相当数の在庫を用意したようだ。少なくとも発売日翌日の2月3日までは、米国各地のApple Storeには当日購入用の在庫があったようである。 すでにご存知の方も多いと思うが、Vision Proの箱はかなり重くて大きい。予測だが、紙素材だけでパッケージを作る関係上、堅牢性を維持するために「紙をできるだけ圧縮して硬くする」「本体をしっかりホールドする立体形状を内部に設ける」などの要件が生まれ、結果として「大きくて重い箱」になったのではないか、という気がする。製品パッケージ重量の半分は、箱関連ではないかと思うくらいだ。
「手と目のセット」が新しいUIに
ただまあ、その辺のことは正直どうでもいい。 とにかく体験の違いこそが、Vision Proの大きな特徴であり、新しさである。 Vision Proをアップルは「空間コンピューティングデバイス」と位置付けている。 「そうは言ってもVRだしHMDじゃん」 おそらく結構な割合で、そう思っている人はいそうだ。 しかし実機をじっくり使ってみると、やっぱりVision Proは「空間コンピューティング」のための機器だという印象が強くなる。 筆者も長くXRの世界を追いかけてきたが、その中では2つの方向性があった。 1つは「世界への没入」。周囲を目に見えている現実とは違うものにしてしまい、ある世界へと耽溺・没入を促すものだ。別の言い方をすれば「異世界旅行」である。 そしてもう1つが「空間ディスプレイ」。四角い平面の中ではなく、自分に見えている領域すべてをディスプレイとし、実景やバーチャルな世界を活用する。同じような言い方をすれば「好きな場所に情報へのポータルを作る」ものだ。 前者と後者は地続きだが、実現できる体験は結構違う。アップルのいう空間コンピューティングとは後者を軸にした世界であり、まさにPCやタブレットの延長線上でもある。 Vision Proのセッティングは、まず「手と視線認証のキャリブレーション」から始まる。両方の手のひらを認識させ、次に、画面内に表示された点を「見つめてから指先をタップ」して視線認識を設定する。 そのコントロールは、本体下面に付いている、手を認識するためのカメラと、内側に内蔵されている視線認識機能で行われているわけだが、セッティングさえされていればあとは簡単に使える。 手の認識と視線認識がVision Proの主要インタフェースであり、これの精度が操作性にも関わってくる。だから、視度調整が必要な人は、インサートレンズやソフトコンタクトレンズの存在が重要になるわけだ。 これが本当に、驚くほどちゃんとしている。100%正確とまでは言わないが、いきなり見当違いの動作をすることはほぼない。操作したいところを見て、そこで「タップ」(親指と人差し指を当てる動作)などをすればいい。タッチパッドと画面タッチの中間のような操作感だ。 アプリは空中の好きなところに置けて、これもまた快適。まさに「空間全体がディスプレイになった」感覚である。複数のディスプレイをリアルに置くこととも、巨大なディスプレイを見ることとも違う新鮮な体験がそこにある。